[024] 電位依存性ナトリウムチャネル voltage-dependent sodium channel (GB#113A02)

[024] 電位依存性ナトリウムチャネル voltage-dependent sodium channel (GB#113A02) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab

電位依存性ナトリウムチャネル voltage-dependent sodium channel
★アニメの改訂版を,[055] 電位依存性ナトリウムチャネル【改】として新しくアップしています。 重要な修正が含まれています。 ぜひ,そちらも御覧ください。(2017-12-11)


●イオンだけの出入り口

神経細胞や筋細胞では,細胞外に追い出されているイオン活動電位(かつどうでんい,action potential)の間,一瞬だけ細胞膜を通り抜けることを許される。 イオンが出入りする通路をイオンチャネル(ion channel)という。 細胞膜のベースとなっている脂質二重層膜はイオンが通りぬけられないから,イオンチャネルは脂質二重層膜に埋まった専用のチャネルタンパクの穴が開いたり塞がったりするしくみになっている。 活動電位はこの穴の開閉を周辺のチャネルに次々に伝染させるしくみだ。

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●チャネルはイオンを選ぶ

sodium channel ナトリウムチャネルイオンチャネルタンパクは色々な種類があるけれど,たいていは通すイオンを選ぶ。 「イオン選択性(ion selectivity)」と呼ばれている。 イオンの種類によってサイズがあって,チャネルの穴のサイズとちょうどぴったりあったイオンだけが上手く通り抜けられるようになっている。 (ちょうどぴったりということは大きすぎても,小さすぎても通らないということだ。) このようなチャネルを通り抜けられるイオンは,ナトリウムイオン(Na),カリウムイオン(K),カルシウムイオン(Ca2+),塩素イオン(Cl)のような,いずれも原子が元になったイオンだ。 生理学ではあまり使わない言葉だけれど,単原子イオンというらしい。 その中でも活動電位で主役になるチャネルは Na イオンだけを選んで通すタイプで,ナトリウムイオンチャネル(sodium channel)という。

●電気で開閉するチャネル

さらにこのチャネルは置かれている電気的な状態(電位,でんい:ここでは電圧とほぼ同じ意味)によって,イオンの通り道の穴が開いたり閉じたりするタイプのチャネルであるので,電位依存性ナトリウムチャネル(voltage-dependent sodium channel / voltage-gated sodium channel)と呼ばれる。 細胞がおとなしくしている間,電気的には静止膜電位(せいしまくでんい,resting potential)と言って,細胞内が一定の負(ふ,マイナス)の膜電位(まくでんい)の状態にある。 その状態,つまり細胞内が負で落ち着いているときは,ほとんど全ての電位依存性ナトリウムチャネルは閉じている。 だからナトリウムイオンは細胞膜を通り抜けられない。 
膜電位が負の状態からゼロの方に近づくことを脱分極(だつぶんきょく,depolarization)という。 ナトリウムチャネルは脱分極するとイオンの通り道が開く性質を持っている。 そして,開いてすぐにひとりでに塞がってしまう。

※電気的にプラス(+極)とマイナス(-極)に分かれてしまうことを「分極,polarization」という。 だから分かれている程度が小さくなることは,”脱”分極になる。

※ほかには,小さな特定の物質がくっつくことで開いたり閉じたりするタイプのイオンチャネル(リガンド依存性チャネル,ligand-gated channel)や,細胞膜がゆがむことで開いたり閉じたりする機械的な力によるチャネルなどもある。

●開く門と閉じる門

イオンチャネルタンパクの実際の構造はさておき,イオンチャネルが開いたり塞がったりする活動を説明するのに,門の開閉のイメージを使う。 電位依存性ナトリウムチャネルは二つの門(ゲート,gate),脱分極で開くゲートと,脱分極で閉じるゲートの二つをどちらも持っている。 そう聞くと脱分極すると結局,チャネルは開くの?閉じるの?どっち?と思うだろう。 これでチャネルとしては,一瞬だけ,開くのだ。
sodium channel

ふたつのゲートはそれぞれ異なった動きをしていて,細胞がおとなしいとき,細胞内が負で安定している状態では,片方が閉じて,もう片方は開いている。 閉じているゲートがあるから,チャネル全体としては塞がっていて,イオンは通れない。 脱分極すると,閉じていたゲートが開く。 このゲートは活性化ゲート(activation gate)と呼ばれ,電位変化に敏感で,脱分極に即座に反応して軽く開く。 一方,静止状態で開いていたゲート,これは不活性化ゲート(inactivation gate)と呼ばれ,活性化ゲートは反対に,脱分極に反応して,閉じる。 だけど,鈍感で動きが遅い(なんでか,ということは聞かないでほしい。笑)。 そこで脱分極するとき,活性化ゲートも不活性化ゲートも一緒に動くけれど,不活性化ゲートが閉じる前に,その一瞬の時間差でちょっとだけチャネルが開通する。

脱分極は分極がなくなって膜電位がゼロに近づくことをいうので,正確にいうとナトリウムチャネルは,脱分極というより,細胞内電位が静止状態より正(せい,プラス)の電位に変化するときに反応する。 まず細胞が脱分極を始めると,無数にあるナトリウムチャネルのうち特に敏感なものがいくつか開く。 そうすると細胞膜が少しだけナトリウムイオンを通しやすい状態になる。 それが原因で細胞膜電位はちょっとだけさらに脱分極する(ここら辺の仕組みはもう少し勉強しないとちょっと難しい)。 脱分極が少し進むので,まだ開いていないナトリウムチャネルがパカパカと開きだす。 そうするとさらに脱分極して,さらにチャネルが開く。 という流れで,膜電位がゼロを通り過ぎて逆転して「正電位」になっても,さらにイオンチャネルは開き続けて,というふうに連鎖反応的に周囲の電位依存性のイオンチャネルは爆発的に開いていくのだ。 ほとんどすべてのナトリウムチャネルが開いてしまうけれど,各々のチャネルは不活性化ゲートによって勝手にすぐに閉じるので,結局,ほとんどのチャネルが一斉に開くのはほんの一瞬のできごとになる。

一度開いて閉じたチャネルは,膜電位がもとに戻らない限り塞がったままで開かない。 これは閉じた不活性化ゲートが,脱分極状態では閉じたままで,静止膜電位に戻らないと開かないからだ。 だから一度発生した活動電位はかならずもとに戻るし,もとに戻らなければ次の活動電位は発生できない仕組みになっている。 不活性化ゲートが閉じている間は,新たな活動電位は発生できないので,この短い期間を「不応期,refractory period」と呼ぶ。 不応期があるから,教科書では「活動電位は加重しない」と習うだろう。

●チャネルの開閉にエネルギーは(ほとんど)いらない

ゲートが開いたり閉じたりする仕組みは簡単にいうと,チャネルタンパクの中の電荷(でんか,electrical charge)が膜電位に応じて位置を変えることで,それがスイッチになってタンパクの穴の部分のカタチが変わって開閉する感じだ。 建物の自動ドアだったら開け閉めするのに電力を消費する。 しかし,電位依存性イオンチャネルのゲートはまわりの電圧に応じて,流されるように動くだけなので,そのためのエネルギーを特に消費しない。 電位・電圧が変化することにエネルギーを使いそうだけど,これも実は電流が流れて移動することで電位が変わるのではなくて,電位を決めるもとになるイオンの種類が替わる(カリウムイオンからナトリウムイオンに替わる)ことによって膜電位のプラス・マイナスが替わる。 このイオンの切替えをイオンチャネル自身がやっているので,電位変化もエネルギーは使わない。 だからこの活動電位の現象はエネルギーをほとんど使わないので,何度でも何千回でも繰り返しても疲れない。

ただし,その切り替えるイオンを細胞膜の内側と外側にそれぞれ振り分けるために,細胞は一生の間,エネルギーを使い続けている。 ATPを使って細胞内にカリウムイオンを溜めて,細胞外にナトリウムイオンを追い出すナトリウムイオンポンプがそれだ。 だから,活動電位そのものはエネルギーを使わないけれど,細胞のエネルギーが枯渇すると,イオンの振分けが衰えて,細胞興奮もできなくなる。 もちろんその時は細胞そのものが生きてはいないから,活動電位どころの話ではなくなってしまう。
※今回の図では,細胞膜とチャネルをはさんで,上が細胞外,下が細胞内を表す。 細胞外にうごめいている○はナトリウムイオンに相当する。 この図では活性化ゲートはチャネルの細胞外側に,不活性化ゲートは細胞内側に描いているけど,実際のところはこのような門のカタチをしているわけではなく,イオンチャネルタンパクの中に構造として組み込まれている。 本当の構造は知らない(笑)。

【余談】”channel”は「チャネル」と書くけれど,口で言うときにはつい「チャンネル」と言ってしまっている。 授業をやるとたいていそこで,「どっちが正しいのか」と学生に突っ込まれる。 昔は学会でも「チャンネル」と呼ぶのが普通だったように思うけれど,英語での発表が主流になった今は,発音でも「チャネル」という人が増えているだろうな。 結論:日本語では呼び方はどっちでもよい(はずだ,笑)。筆記するときは「チャネル」に統一されているようである。

【注】アニメではゲートを開閉する電位センサーを負(-)の電子の動きで表現していますが,実際に確認されているものでは,少なくとも電位依存性カリウムチャネルの場合,正(+)電荷をもったアミノ酸分子が移動するそうです。⇒ 出典  正電荷の場合は,静止状態では細胞内の負電位に引かれて細胞内側にあって,脱分極すると細胞外側に移動という動きになります。 アニメの負電荷の動きとは逆向きになります。 電気的な流れとしては,同じことなので,しばらくアニメはそのままにしています。 ご了承ください。 2016-0808
★アニメの改訂版を,[055] 電位依存性ナトリウムチャネル【改】として新しくアップしています。 そちらも御覧ください。(2017-12-11)

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○参考にしたサイト

ナトリウムチャネル – 脳科学辞典

「生体膜におけるイオン選択的透過の謎に迫る」/日本生物物理学会

○関連する記事

[021] 活動電位 action potential
[031] 興奮伝導 conduction of excitation
[028] 静止膜電位 resting membrane potential
[036] リガンド依存性イオンチャネル ligand-gated ion channel
[040] シナプス伝達 neural signal transmission 041-heartmuscle80.gif
[044] 伸張反射 stretch reflex
[013] 細胞膜の脂質二重層 lipid bilayer of the cell membrane
[004] 陽イオンと陰イオン(1)引力と反発力,cation and anion, attraction and repulsion 
[019] アデノシン三リン酸(ATP) adenosine triphosphate

○参考文献

臓単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (内臓編))
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
細胞の分子生物学, ニュートンプレス; 第5版 (2010/01)
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20140525, 2014702, rev.2015707, rev.20160221, rev.20160828,rev.20161228, rev.20170211,rev.20170505, rev.20180227, rev.20180616.

◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)

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コメント

    (ceokikkenより) [2020/02/01][5:40 PM]

    コメントありがとうございます。なにかお役に立てたでしょうか。

    (養蜂より) [2020/02/01][5:02 PM]

    養蜂家です
    ミツバチヘギイタダニ対策を調べていたらココへ来ました

    (ceoKIKKENより) [2015/11/12][3:10 PM]

    コメントをいただき、こちらこそありがとうございます。
    ご理解の手助けになれば、本望です。
    これからもよろしくお願いします。

    (匿名より) [2015/11/12][2:14 PM]

    大変分かりやすく理解の助けになりました!ありがとうございます!!

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