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[047] 解糖系 glycolysis (GB#106A02)

[047] 解糖系 glycolysis (GB#106A02)

glycolysis
●糖をふたつに割る反応

細胞が好物にしているブドウ糖(glucose)はエネルギーの塊だ。 ミトコンドリア(mitochondria)は,そのエネルギーの大半を,使い回しの利く,いくつものアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate,ATP)に移し替える。 だけど意外なことにブドウ糖そのままはカタチが悪くて,ミトコンドリアの口には合わない。 まず「解糖系」という反応で,ブドウ糖を半分に割ってしまうことが必要だ。 
▼ 

●細胞の薪割

glucosepyruvatepyruvateブドウ糖はヒトが利用できる炭水化物の代表だ。 細胞に取り込むには特別の仕組みが必要だったように,基本的に生体膜そのものは炭水化物を通さない。 ミトコンドリアの膜もブドウ糖とは相性がよくない。 ブドウ糖は半分に割って, 2 分子のピルビン酸(pyruvic acid)という有機酸にする。 ミトコンドリアをエネルギーを燃やす焚き窯(たきがま)だとしたら,その炉口に入りやすいように薪(まき)割って二つにするような感じだ。 ただし,解糖系で出来上がったピルビン酸は,ブドウ糖の半分よりはちょっとばかり小さい。

●割ったら目減りするエネルギー

ブドウ糖は炭素原子 6 個の化合物で,1 モルは 686 kcal のエネルギーを持っている。 火をつけて一気に燃やそうが,細胞の中で念入りに分解しようが,最終的に水と二酸化炭素になってしまう時,全体でこれだけのエネルギーを放出する。 
一方,ピルビン酸は炭素が 3 個の化合物で,1モルは 282 kcal のエネルギーを持っている。 解糖系では 1 分子のブドウ糖から 2 分子のピルビン酸ができるけれど,ピルビン酸 2 モルだと 282 kcal の 2 倍の 564 kcal しかならない。 ブドウ糖のエネルギーとピルビン酸 2 分子分のエネルギーの差し引き,122 kcal はどこに行った? 

●消えたエネルギーは他の物質に移されている

解糖系のよいのは,よく知られているようにミトコンドリアの手を借りる前に,アデノシン三リン酸(ATP)を 2分子,てっとり早く生み出すところだ。 ATPミトコンドリアは ATP を作るとき,最終的に酸素分子 02 を必要とする。 しかし解糖系ではその酸素がいらない。 それもピルビン酸が出来る過程で,いつのまにかアデノシン二リン酸(ADP)からアデノシン三リン酸が出来ている。 解糖系は酸素を使わない ATP の生産過程として重要なのだ。 ただし,ADP → ATP のエネルギー変化は 1 モルで 7.3 kcal (標準状態の値)で,2分子でも 14.6 kcal でしかない。 細胞内の環境だともう少し大きくなるけれど,それでも 20 kcal 程度だろう。 NADH残りのエネルギーの大部分は別の種類のエネルギー運搬体である NADH に移されている。 こちらはミトコンドリアの助けがないと ATP に移されないエネルギーだから,解糖系の勉強をするときにはあまり注目されないけれど,きちんと回収されているのだ。 

●解糖系の反応は意外とややこしい

解糖系は要するに,ブドウ糖を二つのピルビン酸に変える化学反応だ。 その過程で ATP を 2 分子,NADH を 2 分子を生み出す。 初級レベルの生理学ならそれで十分だ。 だけど中くらいの教科書だと,解糖系の反応には ATP が 2 分子使われて, 4 分子が作られるから差し引き 2 分子の ATP が作られるとか書いてある。 これを理解するためにはもう少しプロセスの中身を覗く必要がある。 その過程は意外と複雑で,10 段階のプロセスからなり,見かけからして超複雑で手におえない感じの TCA 回路と肩を並べる。 大雑把に分けると前半の 5 段階がエネルギーをつぎ込む反応で,後の 5 段階がエネルギーを抜き出す反応になる。 毎度のことだけど,反応のひとつひとつの元素のやり取りもエネルギーのやり取りも酵素との相互作用で行われるので,基質となる化合物だけでは化学反応を正確に表すことはできない。 だいたいの雰囲気がつかめればいいのだ。 

●取り込んだブドウ糖は逃がさない

まず細胞膜のブドウ糖専用の運び屋タンパク(ブドウ糖運搬体,glucose transporter)によって細胞に入ってきたブドウ糖は,そのままだと再びブドウ糖運搬体を使って外に出てしまう。 そこでブドウ糖を見つけた酵素がまずそこらへんの ATP からリン酸基を取って,ブドウ糖に付け加えるのだ。 X6P-glucoseそうするともうこれは「ブドウ糖」ではなくて,グルコース 6 -リン酸(glucose 6-phosphoric acid,G6P)という別の物質に変身したことになる。 それが ① の反応だ。 6 -リン酸というのは,構造を見るとわかる通り, 6 個のリン酸という意味ではない。 構造の 6 番の炭素にリン酸がくっついているという意味だ。 グルコース 6 -リン酸のような,リン酸がくっついた物質を外に出す運び屋はいないので,細胞の中から逃げられない。 それとこのリン酸のエネルギーは,これから解糖系の反応を始めるための”気合い”のようなものだと思えばいい。 
(もし細胞内の ATP が十分にあって,ブドウ糖を分解して補充する必要があまりないときには,リン酸基を炭素 1 番に付けかえる。 そうするとそのブドウ糖はグリコーゲンを伸ばすプロセスのほうに回される。)

●ブドウ糖を果糖に変えてリン酸基を付けたす

グルコース 6 -リン酸から,次にリン酸基をもうひとつ付け足す準備をする。 後で化合物を二つに割って二つの同じ分子を作るので,ばらした途端に逃げ出さないように,前もってリン酸をもうひとつ付けておくのだ。 それに先立ってそのリン酸基を付ける場所(-CH2OH )を作るために,反応 ② でブドウ糖の環状構造を開いて水素の場所を入れ替えている。 それで構成する元素に変わりはないけど果糖(かとう,fructose)という別の糖に変化している。 X16P-fluctose化合物としてはフルクトース 6 -リン酸(fructose 6-phosphate)という名前で,その後すぐに反応 ③ で新しい ATP からリン酸基を付け足して,フルクトース 1,6 -ビスリン酸(fructose 1,6-bisphosphate)が出来上がる。 ビスリン酸というのは 2 個のリン酸という意味だ。 

●二つに割ってそれぞれが燃料になる

反応の ④ と ⑤ でフルクトース 1,6 -ビスリン酸を二つに割って,ようやく 2 分子の化合物ができる。 この反応は結構,複雑だけどエネルギー的に特に出入りがないので説明は省略する。 glyceraldehyde 3-phosphate できあがった 3 炭糖のグリセルアルデヒド 3 -リン酸(glyceraldehyde 3-phosphate)は解糖系の前半の準備期間の終わりの物質で,ここに来るまでにブドウ糖 1 分子あたり 2 分子の ATP をつぎ込んでいる。 これからいよいよこのつぎ込んだ分を上回るエネルギーを抜き出すプロセスだ。 

●飛び出すエネルギーを NADH と ATP に移しとる

NADHまず反応 ⑥ で,グリセルアルデヒド 3 ‐リン酸から,エネルギーを持った電子と水素が,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide,NAD)に吸い取られる。 Bisphosphoglycerate残ったエネルギーで,独りでふらついているリン酸が結合して,1, 3 -ビスホスホグリセリン酸(1,3-Bisphosphoglycerate)になる。 
G3P3反応 ⑦ で,すぐにそのエネルギーを抱えたリン酸結合をアデノシン二リン酸(ADP)に付け替えて,まず最初の ATP が生み出される。 残った部分は,3 ‐ホスホグリセリン酸(glycerate 3-phosphate)という物質に変わる。

●もう一つの ATP を生み出すとピルビン酸のできあがり

ひとつの ATP が出来ても,まだこの 3 炭素化合物(glycerate 3-phosphate)にはリン酸が一つ残っている。 これを反応 ⑧⑨⑩ で ADP に付け替えて ATP を生み出す。 反応 ⑧ と ⑨ には ATP を作るための前処理があるけれど,この際,どうでもよい。 リン酸基がとれた物質がピルビン酸だ。 pyruvateピルビン酸にはまだ 282 kcal のエネルギーが残っている。 ブドウ糖のエネルギーの半分である 343 kcal から 282 kcal を差し引いた 61 kcal の大部分が NADH と ATP に移されて,移されなかったわずかな分は反応全体を進める原動力として働いているのだ。
NADH
ATP

● ATP を2つ使った後で4つできる

結局, 6 炭糖である1分子のブドウ糖を 2 分割する前に,まず 2 分子の ATP を分解して,そこから 2 つのリン酸基をくっつけて,二つの同じ 3 単糖を作った後,それぞれのエネルギーを少しいただいて各々で 2 分子の ATP を回収して,ピルビン酸を作っている。  2 分子の ATP を消費して,後で 2 分子 × 2 = 4 分子の ATP を回収しているから,1 分子のブドウ糖から差し引き 2 分子の ATP が回収されている。 それだけでなく,NADH が 2 分子できていることも思い出そう。 これはミトコンドリアに入ると 3 分子の ATP を生み出すと見積もられている。 もちろん,この時にはピルビン酸もミトコンドリアに入って,TCA 回路でとことんエネルギーを吸い取られて,最終的に全部でおよそ 30 分子もの ATP が生み出される。 

ただし NADH が処理されて ATP が生まれるのは酸素呼吸ができるときだ。 細胞の酸素分子 O2 が不足してミトコンドリアが開店休業状態のときは,解糖系で直接作られた 2 分子の ATP しか増やせない。 lactic acid酸素分子が不足するとき,ミトコンドリアに入れない NADH は 2H+ をピルビン酸に押し付けて,安定した乳酸(lactic acid)に変えて,自身は NAD+ に戻る。 それで無酸素呼吸のときには乳酸が増えるというわけだ。

●解糖系と解糖

ブドウ糖からピルビン酸,場合によっては乳酸,が出来る過程をさす言葉として,教科書によって「解糖系」と言ったり「解糖」と言ったりしてあいまいだ。 どちらが正しいのかというと,どちらも正しい,というかどちらでも良いようだ。 いわゆるニュアンスというのが若干違うような説明もあるけれど,それもまちまちだし,「解糖系」も「解糖」も,英語では単に glycolysis だから国際的にはそんな区別はない。  業界用語で○○系というのは普通,英語での○○ system に相当することばで,ちょっとかっこよいので使っているのではないかな。  きっけんらぼでは,そうだ(笑)。

○参考にしたサイト

解糖系という概念に対する異論, 歴史生物学への誘い, 2014年1月8日.
炭水化物とアルコール, 生活習慣病を予防する食生活, 佐藤章夫.

   

○関連する記事

[007] ブドウ糖と,ショ糖の加水分解 glucose and the hydrolysis of sucrose 
[017] 糖質の吸収 absorption of carbohydratel
[050] 細胞呼吸 cellular respiration
[027] ペプチド結合 peptide bond
[032] グリコーゲンの合成 glycogen synthesis
[042] TCA回路 TCA cycle
[019] アデノシン三リン酸(ATP) adenosine triphosphate
[026] ミオシンとアクチンの相互作用 interaction of myosin and actin
[011] 体内の酸性・アルカリ性と炭酸ガス body acid-base reaction and carbon dioxide gas

○参考文献

Lehninger Principles of Biochemistry 6th, International Edition, Macmillan Higher Education, England.
Essential細胞生物学〈DVD付〉原書第3版,南江堂
カラー版 ボロン ブールペープ 「生理学」, 西村書店
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20150202,rev.20150315,rev.20160507,rev,20160618, rev.20170211,rev.20170506,rev.20170709.


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コメント

    (ceoKIKKENより) [2015/06/28][5:45 PM]

    そうですね。ブドウ糖は二つの分子に分解されますが、そのとき水分子の付加はありませんからね。でも、国試の問題としてはちょっとマニアック(細かすぎる)ような気もします。たぶん解説で困った先生が大勢いるのではないでしょうか(笑)。

    (佐世保の髙ちゃんより) [2015/06/28][4:43 PM]

    いつも拝見させていただいています。
    はり師、きゅう師の国家試験で、「解糖系はブドウ糖の加水分解の過程である。」という選択肢がありまして・・・当然、解糖系ではブドウ糖の加水分解は行われないので、答えはわかっているのですが、解説の仕方に非常に困っていました。とても助かりました!!

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