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[007] ブドウ糖と、ショ糖の加水分解 glucose and the hydrolysis of sucrose (GB#101D01)

[007] ブドウ糖と、ショ糖の加水分解 glucose and the hydrolysis of sucrose (GB#101D01)

glucose and the hydrolysis of sucrose
●ヒトの体の中にブドウ糖

ブドウ糖(glucose)は生理学といわず生命領域の話ではもっともよく出てくる物質のひとつだ。 ヒトの体の中でも糖としては実際に量も多いし,いろんな生理現象のところで顔を出している。 ヒトの血液の中の糖,「血糖」の正体はブドウ糖だ。「ぶどうの糖」がどうしてヒトの体を流れているのだろうか。

●お米の中にもブドウ糖

ブドウ糖は科学の世界では英語でグルコース(glucose)と呼ぶけれど,グレープシュガー(grape sugar)ともいうらしい,というか「ブドウ糖」はこの英語を直訳しただけだろう。 「ブドウ糖」というとぶどうに特有の糖のようなイメージがする。 しかし実はブドウ糖はぶどう以外の果物やなんと野菜にも普通に含まれている。 いちばんブドウ糖の含有率の高い作物はたぶん,お米かも知れない(約 70 % )。 ただしお米のブドウ糖はつながって枝分かれした長い鎖状の物質,でんぷんとして粒の中に存在している。

ばらばらのブドウ糖はたしかにぶどうの中に多い。 ところが,ブドウ糖と呼ばれるようになったのは,たまたま化学者がぶどう(干しブドウ)を材料にしてこの糖の精製に最初に成功したことによるものらしい。
ブドウ糖は花の蜜にも含まれる。 ただしブドウ糖単独ではなく,ブドウ糖の親戚の果糖(かとう),果物の糖という名前がついてる糖,英語でフルクトース(fructose),「フルーツの糖」と合体してショ糖(sucrose)というかたちになっている。 精製したショ糖を乾燥させたものがおなじみの「砂糖」だ。

ブドウ糖や果糖はどちらも C6H12O6,炭素6個,水素12個,酸素6個からなる分子だ。 生理的に糖としての最小単位になる物質で,これらは単糖(たんとう,monosaccharide)という仲間だ。
単糖がふたつ結合したショ糖のような糖は二糖(にとう,disaccharide)という仲間になる。
ブドウ糖(左)と果糖(右)
hydrolysis
ショ糖 と 水分子
sucrose
ちなみにぶどうの汁にはばらばらのブドウ糖と果糖が同じ程度に含まれているし,同じ濃度だったら果糖のほうが2倍以上甘いという。 それなら果糖のほうが“ブドウ糖”として発見されてもいいんじゃ?と思うが,なぜそうなってないのかという事情は知らない。

●ブドウ糖はエネルギー源になる

冒頭に書いたようにブドウ糖はヒトを含めて動物の体の中にも普通に存在して,大事な働きをしている。 むしろ動物が生きていくために必要不可欠な物質がブドウ糖なのだ。 ブドウ糖も果糖も細胞が生きるエネルギーのもとになる。 細胞ひとつひとつがブドウ糖や果糖をそのままの取り込んでエネルギー源として利用する。 しかし動物はブドウ糖をいちから自分で作ることはできない。 他の材料から変形してブドウ糖にすることはするけれど,その材料にしても動物は自分の体では作れない。

ブドウ糖や果糖は名前が示しているとおり,植物が作る。 植物が光合成で太陽光のエネルギーを閉じ込めたエネルギーのパッケージなのだ。

動物はこのエネルギーパッケージを食べて利用している。 糖が「甘い」のは動物が本能的にそれを食べたくなる心理的なしくみと言える。 たまたま甘いのではなくて,エネルギー源のシグナルとして甘く感じるように,動物のほうがそうなっているのだ。 日本人がエネルギー源としていちばんよく食べているお米はそんなに甘くないけれど,甘すぎるとうんざりして毎日,身体に必要な量がは摂れないからね。 そこらへんはうまくできている。 甘いのは本来,小さい動物を引き付けるしくみだろう。 動物がヒトとおなじような「甘さ」を感じているかどうかは,また別の話で,ちょっとむずかしいけど,とにかく好まれる味がするのだろう。

とにかく甘いものといえば思い浮かぶのは蜂蜜かな。 蜂蜜はミツバチが花の蜜を巣に運んできて貯めたものだ。 だけど,蜂蜜と花の蜜は同じものではない。 ハチの蜜だ。 運ぶ時に一旦,体に蜜を吸い込むけれど,そこでミツバチが持っている酵素の働きで,蜜のショ糖の大部分がブドウ糖と果糖に分離される。 蜂蜜はばらばらになったブドウ糖と果糖の混合物なのだ。

ブドウ糖はショ糖よりも甘味は弱いけれど,果糖はショ糖よりもずっと甘いので,蜂蜜はやたら甘い。
いっぽう,ミツバチにとってはこれがちょうどよい甘さなのかもしれない。

ミツバチもヒトも,ブドウ糖をエネルギー源として利用するときは細胞の中に取り込まなければならない。 ところが,細胞はブドウ糖や果糖という単糖の状態なら良いけれど,ショ糖のままでは吸収できない。 これは糖が腸の壁で吸収されるときも同じで,ショ糖のままでは大きくて吸収できない。 だから吸収する前に分離する。 要するにこれがおなかの中で起きる糖の消化だ。 ミツバチは食べた後ではなくて,食べる前に消化して巣に貯めていることになる。
血糖はこの消化されて,吸収されたブドウ糖が身体の細胞に使われる前に血液の中を流れている姿なのだ。

●ショ糖の分解

さて,ようやく今回の本題だ。
ショ糖をブドウ糖と果糖に分離することは化学的には分解と呼ばれる。
つながった部分を単にチョキンと切り離すのではない。 それなりの手順が必要になる。 切り離すとそれぞれ端っこがむき出しになるので,そこをきれいに処理する手順だ。 それにはショ糖とは別に,水の分子(H2O)のひとつを分解してできた水素(-H)と,残りの水酸基(-OH)をそれぞれの断端にくっつける方法がいちばんやりやすい。 だって水の分子は周りにいくらでもあるからだ。 このやり方を,水分子を加えることで分解するから,加水分解(かすいぶんかい,hydrolysis)という。

ショ糖の加水分解は 5.5 kcal/mol のエネルギーが遊離してくる反応だ。 これは前後だけを比べると,放っておけば勝手に進んでよい反応というわけだけど,分解する前に障壁となる活性化エネルギーが必要になるので,そうそう勝手には進まない。 だから,体内では加水分解は特定の酵素が行う。 ショ糖の加水分解をするのはヒトの体の中ではスクラーゼという酵素だ。 ミツバチでは同じ働きをするけどヒトとは別の酵素だという。
sucrose
加水分解は酵素の働きが必要なので,「加水分解」と言っても,砂糖を水に混ぜたらそのままではブドウ糖と果糖に分解されるということはない。
逆にブドウ糖と果糖からショ糖を合成する反応は,加水分解の反対で,それぞれの糖から水素と水酸基を奪い取って断端を結合させる。 その結果,水分子がひとつ出来上がるので,脱水縮合(だっすいしゅくごう)という。  これも特定の酵素が必要だ。 さらにブドウ糖と果糖を縮合させるためには分解と反対に 5.5 kcal/mol のエネルギーを投入しないといけない。 そうなるとそのエネルギーをどっかから持って来なければならない。

ショ糖の合成は太陽からエネルギーをもらって光合成をした植物が行う。 動物の体ではショ糖は合成されない。
加水分解と脱水縮合という反応は,身体の中でいろいろな物質が合成されたり分解されたりするときによく使われるやり方だ。 ヒトはショ糖は作らないけれど,ほかに重要な物質を脱水縮合する。 それはまた別に紹介する。

【訂正】[007](ブドウ糖と,ショ糖の加水分解)の図で,ショ糖のグルコシド結合の表現形式が正しくなかったので,修正しました。もしすでに利用されている方がいらっしゃったら,申し訳けありませんが,差し替えをお願いします。(構造図は約束事がいろいろ厳しくて,勝手にいじるのは禁物ですね。)2013-5-26

※生化学的なことをさらに補足すると,フルクトースはβ-D-フルクトフラノース型というのが最も多くて,ブドウ糖と同様の配置で単独の構造図を描くと,ブドウ糖と結合する-OH基は図の右にあってCの上に来る。 上のアニメーションは生理学の教科書にならって結合が横に並ぶように描いていて,一見,別の構造のように見えるが,フルクトースはβ-D-フルクトフラノースになっている。

⇒「ブドウ糖」と「果糖」についてもっと知りたい
糖質 /有田研究室(東大)wiki
糖質 /機能的生物化学研究室(福岡大学)
ブドウ糖 /wikipedia
果糖 /wikipedia
「はちみつ」についてもっと知りたい
「加水分解」についてもっと知りたい
⇒ミツバチのささやき日記(~長崎便り)(リンク切れ) ミツバチは最近,世界的に激減しているそうです。

○関連する記事

[017] 糖質の吸収 absorption of carbohydratel
[047] 解糖系 glycolysis
[019] アデノシン三リン酸(ATP) adenosine triphosphate
[042] TCA回路 TCA cycle
[012] 分節運動 intestinal segmentation 
[027] ペプチド結合 peptide bond
[030] エンドサイトーシスと細胞内消化 endocytosis and intracellular digestion
[032] グリコーゲンの合成 glycogen synthesis
[046] 消化と代謝 digestion and metabolism
[050] 細胞呼吸 cellular respiration

○参考文献

プロッパー細胞生物学,化学同人
Essential細胞生物学〈DVD付〉原書第3版,南江堂
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社
お勉強に疲れたら... ⇒ カラパイアはどうでしょう?

rev.20151231, rev.20150117, rev.20160508,rev.20170208,rev.20170502, rev.20180125.

◆こころ医療福祉専門学校
http://kokoro.ac.jp/

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    (Sayakaより) [2017/01/05][12:48 AM]

    はじめまして。
    砂糖の分解について、調べていてこちらにたどり着きました。
    アニメがわかりやすかったです。
    砂糖の分解の前に、巷ではやっている「酵素シロップ」なるものの
    科学的疑問を調べていました。
    疑問点を書いている最中に、こちらのサイトのリンクが入ってしまいましたが
    ご迷惑なら消しますのでご連絡ください。

基礎医学教育研究会のサイト、KIKKEN Lab(きっけんラボ)へようこそ。

ポイントを伝えるために大胆に要約しています。なお、内容には基礎医学教育研究会独自の解釈や表現が含まれています。あらかじめご了承ください。

できるだけ間違いのないように気を付けていますが、まったくないとは言えません(^_^;)(結構あります)。不明な点はご指摘いただけると助かります。 ※過去の記事でも、必要に応じて頻繁に修正しています。このオンラインの記述が最新版です。

アニメーションはこのまま画面から、PowerPointスライドにコピペできます。 利用するときは(KIKKEN, 2018)と付けてください。このサイトのコンテンツは、引用されたものを除き、基礎医学教育研究会およびその代表者である ceoKIKKEN に著作権があります。

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