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[026] ミオシンとアクチンの相互作用 interaction of myosin and actin (GB#115B02)

[026] ミオシンとアクチンの相互作用 interaction of myosin and actin (GB#115B02)

interaction of myosin and actin


●首振り運動は実在しない?

筋収縮は筋細胞の中にあるタンパクの線維の束が縮むことによっておこる。 この束の収縮は,タンパク線維の分子が縮むのではなくて,横に並んだミオシン(myosin)とアクチン(actin)という2種類のタンパク線維(フィラメント)の位置関係が動く(滑る)ことによって生じる。 この考え方を筋収縮の「滑走説(かっそうせつ)」(滑り説;sliding theory)と言って,1954年にイギリスの研究者によって発表されて60年経つ。  今,滑走説自体を疑う研究者は(たぶん)いない。 問題は,どうやってその滑り運動の力を得ているかだ。 教科書的にはミオシンの頭部(myosin head)がアデノシン三リン酸(ATP)のエネルギーを得て首振り(swing)してアクチンを手繰り寄せる首振り説(swinging lever arm model)が有力だけど,まだまだわからないことは多いらしい。

filament power stroke

世界的に多くの研究者は,首振りしているという前提で,それを精密に解明するという方針で研究を続けている。 しかし大阪大学の柳田敏雄教授の画期的な実験によると,実際に見てみたら首振りしなくてもフィラメントの滑走は起きるらしい。 だから,いつか教科書の説明もまったくひっくり返ってしまうかもしれない。 それを考えるとここで首振りの説明をすることは気が重いけれど,このあとの数年で書き換わってしまうことはない雰囲気もあるから,今の教科書に沿って話をしよう。

●ミオシンは頭の部分が大事だ

power stroke

筋細胞の中の筋フィラメントは,ミオシンというタンパクが重合した太いフィラメントと,アクチンというタンパクが重合した細いフィラメントの2種類がある。 重合(じゅうごう)というのはバラバラの分子が規則的な集合のしかたをして大きな塊を作ることだ。 ひとつのミオシンは,頭部とそれに続く長い軸の部分からなっていて,太いフィラメントはひとつひとつのミオシンの頭部が外に向くように,軸の部分を束にしてまとめたものだ。 ミオシン頭部のすぐ近く,くっついたり離れたりできる距離に,主にアクチンでできた細いフィラメントが位置している。 ミオシン頭部がアクチンに結合した状態を,太いフィラメントと細いフィラメントの間の橋に見立てて,架橋(かきょう,crossbridge)と呼ぶ。

実際はこのほかに,筋収縮を起こしていない間にミオシンとアクチンの反応を邪魔しているタンパクが,アクチンを取り巻いて細いフィラメントの全体を構成している。 筋収縮が起きるときには,この邪魔をしているトロポニン(troponin)とトロポミオシン(tropomyosin)というタンパクが,収縮するときだけ飛んでくるカルシウムイオン( Ca2+ )の働きで変形してミオシンとアクチンの反応が進むけれど,今回は収縮のコントロールのしくみは省略して,収縮モードだけに絞る。

●ATPはミオシンとアクチンを引き離す

さて,筋収縮の直接のエネルギー源は ATP (アデノシン三リン酸)だということは生理学の基本中の基本だ。 ATP ATP はミオシン頭部に結合する。 ミオシンはそれ自身が ATP 分解酵素(ATPase)の働きも持っていて,アクチンと結合することで ATP を分解してエネルギーを取り出し,そのエネルギーを使ってアクチンを手繰り寄せる。 これが収縮のしくみの概要だけど,しろうと的には ATP がエネルギー源だと聞くと,ATP が結合することによってミオシンがアクチンと結合して,エネルギーを使うとアクチンを放すようなイメージを抱くだろう。 だけど,これが初歩的な落とし穴だ。

実はエネルギーを使い果たしたとき,ミオシンはアクチンと強く結合したままだ(the strongly bound state)。 アクチンと結合しているミオシンに ATP が結合することで,分子の構造が変わってまずミオシンがアクチンを放す。 放すと言っても完全に放すのではなくて,「弱い結合,the weakly bound state」と言われる状態に変化するらしい。 そこで ATP がアデノシン二リン酸(ADP)ADP-m30.gifとリン酸phosphate1-m16.gifに分解されて,エネルギーが飛び出す。 このエネルギーは ADP から分かれたリン酸をミオシンに結合させる。 同時にミオシン頭部をアクチンフィラメントに沿って前進させる力にもなる。

●ミオシンの前進の力はどこから?

弱い結合のときにミオシン頭部は,位置をアクチンフィラメントに沿って「前方に」移動させる。 この時,オリジナルの首振り説では,ミオシン頭部の根本の動く軸(レバーアーム,lever arm)部分の角度が変化して頭部が前方に振り出されると説明しているように見える。 しかしこれだとレバーアームはミオシンの主軸に固定されていなければミオシン頭部は動けないし,なにより,アクチンと弱く結合している状態だと前に振り出すことで前方に進めようとするのはシロート的に今一つしっくり理解しづらい。 ミオシン頭部が前進する力はレバーアーム部分ではなくて,アクチン分子との相互作用の部分で発生すると考えたほうがよさそうな気がする。  実際,理化学研究所の報告では,近接するミオシン頭部とアクチンのアミノ酸配列の間で移動の力が発生して,ミオシン頭部の分子構造の角度を変化させると説明してある。  だから今回の動画ではミオシン頭部の先端がアクチンと反応して前進するイメージで描いている。 myosinhead-rolling-s25.gif くるくる回っているのは「能動的に前進する」ということを強調するための「表現」で,実際は分子は回転はしない。 小刻みに不規則な振動をしながらいつのまにか進んでいる,という感じらしい。 最近の超音波モーターみたいだ。

●アクチンフィラメントには向きがある

ところで,ミオシン頭部はアクチン線維のどちらが前方か知るのだろうか。 答えは簡単だ。 線維を作っているアクチン分子ひとつひとつに,こっちが前,こっちが後ろと書いてある。 真面目にいうと,アクチン分子に方向性があって,それが同じ向きに縦列につながっているから線維の向きもわかるのだ。 この場合,ミオシンにとってアクチン線維の前方とは,アクチン線維が筋節(sarcomere)の境界である Z膜に固定されている側になる。 アクチンの方向は + 端(プラス端)と - 端(マイナス端)と表現されていて,ミオシンは-端から + 端に向かって前進する。

●最後のひと漕ぎがフィラメントを引っ張る

さて,ミオシン頭部が ATP のエネルギーでアクチン線維の上をいいところまで前進すると,ミオシン頭部とアクチンの関係は「強い結合状態,the strongly bound state)に変わる。 最初の ATP の分解で発生したエネルギーはちょうど使い切ってしまったところだ。 ところがミオシン頭部にはまだリン酸が高エネルギー結合したままだ。 そこで,ミオシン頭部の移動によって,ミオシン自体のかたちが変化することで今度は,結合しているリン酸がミオシンから離れるようになり,そのときに発生するエネルギーでレバーアームをぐいっと元の状態(角度)に戻す。 そのときにフィラメント全体がぐいっと引き込まれ,筋節が1ストローク分,短くなる。 リン酸が離れていき,レバーアームが元の形にもどったらそれを合図にミオシン頭部に残っていた ADP が離れていく。 これがミオシンとアクチンの相互作用によるフィラメントの滑り込みの1サイクルになる。 ADP が離れていくのと入れ替わりに新たな ATP がミオシン頭部に結合して,次のサイクルに入り,筋収縮する間は,このサイクルが繰り返されていく。

ATP の1分子でどれだけミオシンがアクチンを引っ張るのかは諸説あるようだけど,もともと筋線維にかかる抵抗(負荷,ふか)によって変わるものだから,専門学校レベルであれば別に気にすることはない(と思う(笑))。

myosin-quick.gif

●力を抜いても,ATP はあふれている

健康なら,筋肉を収縮させているときに途中で ATP が足りなくなったりしない。 もちろん,筋肉を使うとだんだん疲れてきて力が出なくなってくる。 だけど,ATP が無くなるずっと前に ”気力” が無くなってしまい,神経の指令が途絶えて,筋細胞は収縮モードから弛緩モードに入るだろう。 筋細胞の中には ATP はいつでも必要な分は用意されている。 足りなければ細胞活動を総動員して補充される。 だから弛緩しているときもミオシンの周りには ATP がいっぱいだ。 筋肉の収縮と弛緩を決めているのは ATP のあるなしではなくて,カルシウムイオン(Ca2+)のあるなしで,これは別の機会に取り上げる。

もしミオシン頭部の運動の1サイクルが終わったとき,次の ATP がなくなっていたら,ミオシンとアクチンは強く結合したままで離れない。 筋細胞が死んだとき,ATP の補充は停止するので筋細胞の中で筋フィラメントは一斉に固くこわばってしまう。 これが「死後硬直」のしくみだ,とたいていの教科書には書いてある。 特に,死ぬ間際に強く収縮していた筋ほど早く ATP が枯渇するので,早く固くなるらしい。

◎動画の説明: 【注】ミオシンをレバーアームと車輪で表現しているけれど,実際は連続したひとつの分子のかたまりだ。 ATP はアデノシンを省略して,リン酸基3つだけで表している。 ATP が結合するミオシンの部分は,実際は裏側(前進する方向と反対側)なのだそうだけど,図的に表現しにくかったので,ミオシンの前面にしている。 アクチンは図では左方向がプラス端になる。

筋原線維は何で出来ている?,カラダUniversity ⬅ 新しく始まったみたいですが,素晴らしいイラストと解説です(若干,誤字,表記の不統一あり;翻訳物かな?)(2018/05/04)。
○詳しい説明に興味のある人は覗いてみてください。
⇒ 筋収縮のエネルギー変換機構を解明「アクチンの結合で起こるミオシンの力発生の機構が完全に分子レベルで解明されました。」 (平成19年7月23日,科学技術振興機構(JST),理化学研究所)
⇒ タンパク質はどうやって身体を動かしているのか:(リンク切れ:20170701)
⇒ ミオシンの構造:
⇒ 筋肉の動きを1分子で見る-機械を越える?ミオシン・モーター:柳田敏雄:
⇒ 生物モーターから生物のすばらしさを見る:
⇒ ミオシンの「尻尾振り説」は正しいか?:
⇒ ミオシン・モーター蛋白質のレバーアーム運動とパワーストローク

○関連する記事

[019] アデノシン三リン酸(ATP) adenosine triphosphate
[009] 筋収縮のストローク stroke of the muscular contraction
[035] 骨格筋収縮の張力 tension of the skeletal muscle contraction
[033] 平滑筋の収縮 smooth muscle contraction
[041] 心筋線維 myocardial fiber 041-heartmuscle80.gif
[021] 活動電位 action potential

○参考文献

プロッパー細胞生物学,化学同人
Essential細胞生物学〈DVD付〉原書第3版,南江堂
細胞の分子生物学, ニュートンプレス; 第5版 (2010/01)
肉単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (筋肉編))
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20150721,rev.20170505.

◆こころ医療福祉専門学校
http://kokoro.ac.jp/

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