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[011] 体内の酸性・アルカリ性と炭酸ガス body acid-base reaction and carbon dioxide gas (GB#112C01)

[011] 体内の酸性・アルカリ性と炭酸ガス body acid-base reaction and carbon dioxide gas (GB#112C01)

body acid-base reaction and carbon dioxide gas


●「酸性」って「酸素の性質」とちがうの?

酸素がくっつくことを「酸化」とはいうけど,「酸化」と「酸性」はどうやら別モノらしい。 と言われてすぐに納得する人はあまりいないだろう。 巷では時々話題になる血液の酸性,アルカリ性に関して,深呼吸を繰り返して酸素をいっぱい吸うと,つい血液が酸性になると思ってしまう人もいそうだ。 実は深呼吸を繰り返すと血液は逆にアルカリ性に傾いてしまう。 酸性を「酸素の性質」と思っていると,さっぱりわけが解らない,ハズだ。

●酸素は酸性のもとにならない

こんなことで悩むのは日本の学生くらいなものではないか? だって,英語では酸素は oxigen ,酸化は oxidation で,一方,酸性は acidity ,近年,話題になってる酸性化は acidification で全然ことばが違っているからだ。 と思っていたら,実は,もともと欧米でいう酸素 oxigen は「酸の素」という意味で名づけてしまったそうな。 そうです。 もともとは酸性は酸素による性質と思われていたのは確かなのだ。 ところが実際は酸素は酸の素では無かったのです。 それでも現在,英語では酸には acid という別の名前が与えられているから混乱は少ないだろう。 日本語でも酸性は「酢性」とでも言い換えていたら良かったのかもしれないがもう遅い。

●酸性・アルカリ性は水素イオンの濃度で決まる

酸性,アルカリ性とはどういうことかという説明は,化学業界ではさまざまな環境の中でも使える統一的な説明を追求したためにかえって難しいことになってしまっている。 しかし,人体の生理学を考える上では以下のような古典的な説明で十分だろう。 人体の中の液体は水溶液だし,温度は体温でほぼ一定だからだ。
酸(acid )とは単独で水に溶かしたときに酸性を示す性質をもつもので,酸性とはなにかというと,”酸素”ではなくて,別の陽イオンの水素イオン(H)が発生して水中の H 濃度が上がっている状態だ。

一方,酸と一緒に水に溶かすと反応して塩(えん,salt)を作る物質を塩基(えんき,base )と呼び,塩基は単独で水に溶かすとアルカリ性を示す。 よってアルカリ性のことを “塩基性(basic)” とも言う。 アルカリ性(塩基性)とは,陰イオンの水酸化物イオン(OH)が発生して,水素イオンよりも濃度が上がっている状態だ。
水素イオンも水酸化物イオンも水分子(H2O)が分離した部品だ。 水酸化物イオンが増えた分に応じて水中の水素イオンの濃度を下げるから,水素イオン濃度を測ればアルカリ度が判る。 なぜかというと,水溶液では,水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度は “モル濃度(mol/L)” で掛け合わせると 10-14 になるという規則性があるからだ。

●ちょうどよいのは4対25

水素イオンの濃度を pH で表すと,体内に流れる血液の最適な値は pH 7.40 ± 0.05 と言われる。 つまり pH 7.35 から pH 7.45 の範囲ってことだ。 水中の水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度が等しい中性は pH 7.0 で,それより数値が大きくなるとアルカリ性で,7.0 より数値が小さくなると酸性ということは中学生でも習うだろう。 だから血液は中性よりもわずかにアルカリ側に傾いていて,弱アルカリ性だと言われる。

”わずかに”というけれど,ちょうどよい pH 7.40 では水素イオン濃度は 3.98 × 10-8 mol/L,水酸化物イオン濃度は 25.1 × 10-8 mol/L で,その濃度比は 4:25 ということで,水素イオンは水酸化物イオンのおよそ6分の1しかない。 これが,正常範囲の下限の pH 7.35 では,水素イオン濃度は上昇して 4.47 × 10-8 mol/L で,この時の水酸化物イオン濃度の 22.3 × 10-8 mol/L に対しておよそ5分の1になり,上限の pH 7.45 では水素イオン濃度が 3.55 × 10-8 mol/L に下がって,酸化物イオン濃度 28.2 × 10-8 mol/L のおよそ8分の1になる。 数値を pH で表すと,ごくわずかな変化に見えるけれど,実際の濃度で見れば,5分の1と8分の1では,環境の条件としては結構大きな違いだ。 塩と砂糖の加減でいうと,微妙な味の違いはでてきそうだ。 ごく一時的なものを除いて,血液の状態がこの正常範囲から外れると,原因か結果に関わらず,身体の具合が悪いことを示し,ひどく外れると死んでしまうというのも無理はないだろう。

●身体の中の酸性物質

塩化水素(HCl)は水に溶けると,H と Cl に解離(かいり)して H を発生するので酸だ。 塩化水素の水溶液を塩酸(hydrochloric acid)という。
水酸化ナトリウム(NaOH)は,水の中で酸の HCl と反応させると,HCl + NaOH → NaCl+ H2O となり塩化ナトリウム NaCl という塩を作るから塩基だ。 単独で水に溶かすと NaOH → Na + OH と解離し水酸化物イオンを増やすのでアルカリ性を示す。
塩酸が解離すると陰イオンの塩素イオン Cl が発生するし,水酸化ナトリウムが解離すると陽イオンのナトリウムイオン Na ができるけれど,塩素イオンやナトリウムイオンは “酸性/アルカリ性” には直接には関係ない。 少なくとも水溶液の中では,水素イオンと水酸化物イオンの比が “酸性/アルカリ性” を決める。

また,酸性とかアルカリ性とかは,水に溶かしたときの水溶液の性質がそうだ,と言っているので,必ずしも水に溶かす前の物質から水素イオンとか水酸化物イオンが出てくるものばかりではない。 水の分子(H2O)から H を奪い取って OH を発生するという手もある。 だから世の中の様々な物質が酸性になるかアルカリ性になるかは,またその酸性が強いか弱いかなどは,構成している元素や構造の性質によるので,物質の化学式だけで判断するのはある程度勉強した専門家でないとほぼ不可能だ。 結局,素人は知っておくべきそれぞれの物質の性質を地道に勉強しないとしかたないということだ。
学校の生理学で,酸性,アルカリ性のしくみの勉強が必要なものはほんのわずかしかない。 水素イオン(H)と重炭酸イオン(HCO3,炭酸水素イオン),それと炭酸(H2CO3)くらいだ。
ほかにアミノ酸(amino acid)とか乳酸(lactic acid)とか脂肪酸(fatty acid)とか,それに塩酸とかリン酸(phosphoric acid)とか酸という名前はいくつも教科書には出てくるけれど,これらの物質はそれがあるとかないとか,できるとかを問題にはしても,その物質の酸性,アルカリ性を問題にすることはほとんどないから心配ない。
 

●炭酸は大量に発生する

炭酸(carbonic acid)は体内でいちばん大量に発生する代謝産物だとされる。 身体を作っている細胞のひとつひとつが呼吸をして炭酸ガス=二酸化炭素(CO2)を発生する。 炭酸ガス(carbon dioxide)は,炭酸から発生した気体物質(ガス)ということで,「炭酸」がそのままガスになったものではないから,この名前も素人はときどき混乱してしまう。 ちなみに,炭酸ガスの「酸」は acid の酸だけど,二酸化炭素の「酸」は oxigen (酸素)の酸のはずだから,ますますこんがらがる。
炭酸ガスは水分子と反応すると炭酸になる。 炭酸(H2CO3)は水のなかで一部が重炭酸イオン HCO3 と水素イオンに分離して,水素イオンを出すから,酸だ。

CO2 + H2O → H2CO3
       H2CO3 → HCO3 + H

体内では大量に発生する炭酸ガス(CO2)を運ぶ必要があるけれど,ガスの状態では,発生する量の10分の1しか水には溶かせない。 そのため,大部分を「炭酸脱水酵素 carbonic anhydrase」という特別な酵素の力を借りて,十分に水に溶ける重炭酸イオン(HCO3)の形にして運ぶ。 そのとき,水素イオン(H)が発生するので,放っておくと血液は酸性になってしまう。 しかし都合のよいことに,この水素イオンは一時的に別の形で隠しておく仕組みがあって,肺にたどり着くと,この H はまた重炭酸イオンに戻されて炭酸ができる。 炭酸は水と炭酸ガスに分かれて,炭酸ガスは吐き出す空気に混ざって捨てられる

HCO3 + H → H2CO3
       H2CO3 → H2O + CO2

炭酸ガスの発生で生じる水素イオンは最終的には差し引きゼロになって,収支では身体を酸性にすることはない。
それでは,深呼吸を繰り返すと血液がアルカリ性に傾くのはなぜか。 過度の呼吸をすると,炭酸ガスが余計に吐き出されてしまう。 そうすると,その分,水素イオンが余計に片づけられてしまうのだ。 水素イオンが減ると水酸化物イオンが増える。 これでアルカリ性に傾くのだ。 やはり酸素は関係なかった。

※炭酸でちょっとややこしいのは,「炭酸水」は弱酸性を示す一方,「炭酸ナトリウム」は「酸」という言葉がはいっているけれど,その水溶液は酸性ではなくて,弱アルカリ性になる,みたいなことがあることだ。

※赤いは炭酸脱水酵素が働いているところを示すけれど,あまり厳密ではない。 だいたいの目安だ。

○参考にしたサイト

・酸素の語源 ⇒ 知泉Wiki 酸素 Last-modified: 2006-07-16 (日)
・塩酸の語源 ⇒ 『舎密開宗』からたどる,和名「塩酸」「塩素」の名称の起源について(pdf)
・温泉の化学・水溶液の性質 ⇒
5 温泉の化学 5-2 水溶液の性質(1) 溶解とイオン
・炭酸ナトリウム溶液が塩基性になるわけ ⇒ なるほどの素

・酸塩基平衡についてくわしく知りたい ⇒ 脂質と血栓の医学
pHとは? 水素イオン濃度

○関連する記事

[004] 陽イオンと陰イオン(1)引力と反発力,cation and anion, attraction and repulsion 
[007] ブドウ糖と,ショ糖の加水分解 glucose and the hydrolysis of sucrose 
[023] 赤血球とヘモグロビン erythrocyte and hemoglobin
[016] 血液循環 blood circulation
[015] 胸式呼吸 costal breathing
[010] 肺胞換気量と死腔 alveolar ventilation and dead space
[046] 消化と代謝 digestion and metabolism
[050] 細胞呼吸 cellular respiration

○参考文献

細胞の分子生物学, ニュートンプレス; 第5版 (2010/01)
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20160507,rev.20160717,rev.20161220,rev.20170126,rev.20170502.

◆こころ医療福祉専門学校
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