[017] 糖質の吸収 absorption of carbohydrate (GB#105D02)

[017] 糖質の吸収 absorption of carbohydrate (GB#105D02) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab

absorption of carbohydrate
●「消化」だけでは消えて無くならない

口から入れた食べ物は胃で強い酸性にさらされた後,続く小腸(small intestine)にたどり着くとアルカリ性の消化液のもとで本格的に消化される。 「消化」(digestion)というと消えて無くなるイメージがあり,腸に吸い込まれて消えていくことを「消化」と思ってしまうけれど,専門用語というのはそう簡単ではない。 消化は吸い込まれる直前まで食べ物をバラバラにしてしまうことをさし,腸に吸い込まれる現象は「吸収」といって区別している。 消化する仕組みと吸収する仕組みは別だからだ。 「消化が良い」ものであっても「吸収が良い」とは限らないのだ。

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●デンプンは消化されてブドウ糖になる

我々の主食の主成分である炭水化物の代表,デンプン(starch)は,ブドウ糖(グルコース)でできた長い鎖のかたまりだ。 それが口の中と小腸の中の二回に分けて,デンプン専用消化酵素のアミラーゼ(amylase)の作用を受けて,基本的には2個のブドウ糖でできた麦芽糖(マルトース,maltose)まで分解される。 アミラーゼは唾液(だえき)と膵液(すいえき)の中に混じって出てくる。 デンプンが「消化液」で分解されるのはここまで。  しかし消化はここで終わらない。 マルトースは「吸収」されないからだ。

栄養分の吸収は基本的に小腸の管で行われる。 口から入ってくる炭水化物はいろいろな大きさ,形があるけれど,小腸の壁が吸収できる炭水化物はグルコース,果糖(フルクトース,fructose),ガラクトース(galactose)といった限られた単糖(monosaccharide)だけなので,マルトースは分解してグルコースにならなければならない。 この最後の「消化」は「消化液」ではなくて,吸収する小腸細胞の膜の上で行われる。 マルトースを分解する消化酵素,マルターゼ(maltase)が細胞膜の上に固定されているという。 小腸の壁に触れたマルトースだけが消化される仕組みだ。

  Maltase.gif :マルターゼ (麦芽糖分解酵素)
  GLUCOSE.gif  :グルコース (ブドウ糖)

●ブドウ糖の吸収には何種類もの助っ人が働いている

小腸の壁,というか,消化管の壁はほとんどが単層円柱上皮(たんそうえんちゅうじょうひ,simple columnar epithelium)と言って,細胞1個分の厚さしかない。 同じサイズの縦長の上皮細胞がびっしりと隙間なく横につながって一枚の薄いシートを作っているのだ。 小腸の中の栄養分はこの薄い壁の越えなければ身体の中に取り込まれない。 というより,この薄い壁を越えればもう体の組織の中になる。

マルトースはこの小腸の壁の細胞に触れたとたんにグルコースに分解されて,グルコースはすぐさま上皮細胞に取り込まれる。 これが糖の「吸収」だ。 とはいえ,糖類はもともと,どれも細胞膜にはじかれてしまうから,細胞がグルコースを吸収するためにはそれなり仕掛けが必要だ。 小腸の壁はその中でも特別の仕掛けを使う。 腸の中で消化されたグルコースを最後の最後までとことん吸収するために,能動輸送(のうどうゆそう,active transport)を使う。 グルコースをつかまえて細胞の中に引っ張り込む。 ただしアデノシン三リン酸(ATP)のエネルギーを使う本格的な能動輸送じゃない。 細胞内外のナトリウムイオン(Na)の大きな濃度差を使った特別な「能動輸送」だ。

  SODIUM.gif :ナトリウムイオン Na

食べ物の塊と一緒になって腸の中にあふれている消化液には Na が大量に混ざっている。 一方,生きている細胞の中というのは Na は極端に少ない。 だいたい 20 倍以上の濃度の違いがある。 加えて Na は陽イオンで,一方,細胞の中はマイナス(負)の電位になっている。 そのため消化液の Na はスキがあれば細胞の中に流れ込もうとする「エネルギー」を持っているのだ。 小腸の壁はこの力を利用して一緒にグルコースを細胞の中に引きずり込む。 そういう仕事をする,タンパク質でできた運び屋が細胞膜に埋まっているのだ。 Na の濃度勾配による力は強いので,グルコースの濃度勾配に逆らってさらに,多くのグルコースを取り込むことができる。 (注:アニメーションでは1個の Na が一個のグルコースを引きずり込むように表現しているけれど,実際は2個の Na が一緒に入るという。) グルコースに関しては能動輸送ということになる。

この輸送を行う運び屋は,ナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT: sodium-dependent glucose transporter)という名前がついている。 ただ,細胞内にグルコースが入ると同時に Na も入っていくから,ほっとくと細胞内には Na が増えてしまう。 そんなことになるとこのグルコース吸収は止まってしまうので,Na は別の仕組みで細胞から一生懸命に追い出さなければならない。 この Na を追い出すのが,「ナトリウムポンプ(sodium pump)」と呼ばれる ATP を使ったほんとの(?)能動輸送だ。 身体を作るどの細胞でももっている,細胞外の K を取り込んで,代わりに細胞内の Na を追い出すあれだ。 正式名称は「ナトリウム・カリウムイオンポンプ(sodium-potassium ion pump)」という。 Na を使ったグルコースの能動輸送は,この本来の能動輸送のおかげで回っているということなので,「二次性能動輸送,(secondary active transport)」と呼ばれる。 「二次性」というのは間接的に ATP のエネルギーを使っているという意味だ。 小腸でのグルコースの吸収はナトリウムポンプがあるからできることなのだ。

  SGLT1.gif :ナトリウム依存性グルコース共輸送体 SGLT (二次性能動輸送)
  Na-pump.gif :ナトリウムポンプ (能動輸送)

   ※注意:実際の膜のタンパク質は細胞膜の内外の間で回転運動はしない。
        このアニメーションは単なる表現です。

  potassiumu.gif :カリウムイオン K

●グルコースを細胞から吐き出す仕組みも必要

単層円柱上皮に取り込まれたグルコースは,身体の中に入れるためには,この上皮細胞の裏側(下?)から出ていくことになる。 この時のグルコースの膜の通過はまた違ったやり方をする。 もちろん細胞膜は内側だってグルコースをはじくから膜をすり抜けることはしない。 ただし今度は仕組みは簡単だ。 グルコースそのものの濃度の違いで働く運び屋が仕事をする。 細胞の中にグルコースをどんどん吸収すれば,細胞内のグルコース濃度は自然,高くなる。 上皮細胞の裏側の組織側のグルコース濃度よりも高くなれば,この運び屋,グルコース輸送体(GLUT: glucose transporter)がぐるっと回って(注:実際は,タンパク質はぐるっと回らないらしいけど...)グルコースが外に出る。 ナトリウム依存性グルコース共輸送体(SGLT)もグルコース輸送体ではあるので,これと区別するために,ナトリウム非依存性グルコース輸送体,と長たらしい名前で呼ぶこともある。 このような,運ばれる物自身の濃度勾配に従って膜を通過するやり方は,勝手に膜を抜けていく「拡散(かくさん,diffusion)」と同じようなもので,授動輸送(passive transport)のひとつだけど,専用の運び屋が必要ということで,ただの拡散とは区別して「促通拡散(そくつうかくさん,facilitated diffusion)」と呼ばれる。

  GLUT2.gif :グルコース輸送体 GLUT (Na非依存性グルコース輸送体)

●輸送体は専用仕様

SGLT にしろ GLUT にしろ,タンパク質でできた輸送体は運ぶ相手が決まっていて誰でもオーケーというわけでなない。 グルコースを取り込む GLUT はガラクトースも運ぶことができるそうだけど,別の単糖,フルクトースは相手にしない。 フルクトースは別の糖輸送体,しかも促通拡散で通過させる運び屋が取り込みを担当している。 フルクトースはとことん吸い上げるようにはなっていないらしい。 上皮細胞から排出する運び屋はフルクトース専用のタイプと,どの単糖も運ぶタイプがあるようだ。
炭水化物の他に,タンパク質の分解産物,小ペプチドやアミノ酸も,単糖と同様のやり方で,小腸上皮細胞に取り込まれて,排出されるけれど,その取り込みも排出も各々,アミノ酸専用の輸送体が働いている。 小ペプチドの取り込みには Na ではなくて,水素イオン(H)依存性ペプチド輸送体という運び屋が仕事をしているという。 タンパク分解産物は細胞の中で一旦はすべて,アミノ酸に分解されて,上皮細胞から排出されるときには,全部,アミノ酸単体として出ていくらしい。(最近,小ペプチドで吸収されたものの中に,そのままタンパクの再合成に利用される例もあるという話も出ているので,今後,この説明は変わっていくかもしれない。)

●毛細血管へは単純拡散で移動する

排出されたブドウ糖などの単糖類やアミノ酸は,すぐそばの毛細血管に入っていくけれど,この仕組みは楽だ。 血管上皮細胞の隙間を抜けて,血液の中に「単純拡散」で入っていく。 その後,血液の流れに乗って移動する。 どこへ行くのか。 消化管で吸収された単糖類とアミノ酸類の大部分は門脈(もんみゃく,portal vein)を通って巨大な総合処理工場,肝臓(かんぞう,liver)に運ばれるのだ。

●同じしくみは腎臓でも働いている

尿管のグルコース吸収xm230

このブドウ糖を体内に吸収するしくみは,腸管だけでなく,尿を作る過程でも使われている。 尿は腎臓(じんぞう,kidney)の糸球体(しきゅうたい,glomerulus)を通じて,血漿(けっしょう)に溶解した小分子成分が大量の水と一緒にこし出されるところから始まる。 ここで血糖であるブドウ糖も一度は出てしまう。 健康な状態なら,その後の尿細管(にょうさいかん,renal tubule)で 100 % が再吸収されて,尿にはブドウ糖が残らない。 このブドウ糖の再吸収のしくみは,N 依存性共輸送体から毛細血管への移送まで,腸管でのブドウ糖の吸収のしくみとほとんど一緒と言っていい。 ひとつだけ違うのは尿細管では消化酵素は必要ないので存在しないということだ。

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[047] 解糖系 glycolysis
[032] グリコーゲンの合成 glycogen synthesis
[046] 消化と代謝 digestion and metabolism

○参考文献

臓単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (内臓編))
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
細胞の分子生物学, ニュートンプレス; 第5版 (2010/01)
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20141129, rev.20141218, rev.20150719.rev.20150911, rev.20170211,rev.20170504, rev.20170909.

◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)

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コメント

    (ceoKIKKENより) [2015/09/11][8:25 AM]

    けいさん、ありがとうございます。
    小腸の吸収のところは、自分も人に教えるようになって初めてよく読んでみて(笑)、理解するのに時間はかかりましたが、それまでぼやっとしていたところがすっきりして、ほほうとその仕組みに感心したところです。このページでは細かいところはかなり端折っているので(自分の誤解もあるかも...)、正しい理解のためにはきちんと教科書を読みなおしてくださいね。

    (けいより) [2015/09/11][5:43 AM]

    ceoKIKKENさま
    ありがとうございます。小腸での吸収の仕組み、とても詳しい解説で、きちんと理解できました。からだの仕組みって、本当に不思議ですね!!

    (ceoKIKKENより) [2014/08/17][11:44 AM]

    よかったら、よくわからなかったところも教えてください。(^-^)

    (maruより) [2014/08/17][10:41 AM]

    とてもわかりやすかったです。
    また勉強にきます。

    (履歴書の書き方の見本より) [2014/05/22][10:16 AM]

    とても魅力的な記事でした。
    また遊びに来ます!!

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