[037] 膠質浸透圧 colloid osmotic pressure (GB#102A02)

[037] 膠質浸透圧 colloid osmotic pressure (GB#102A02) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab

colloid osmotic pressure


●浸透圧となにか違うの?

教科書の始めでむずかしい「浸透圧」を勉強するけど,そのあと血液の勉強になるとだいたい特になんの説明もなしに「膠質浸透圧(こうしつしんとうあつ,colloid osmotic pressure)」という言葉がでてくる。 同じなのか違うのかよくわからない。 実のところ,似ているようで似ていない。 根本的な原理は同じだけれど,教科書でいう「浸透圧」はすべての細胞にかかわる力で,「膠質浸透圧」は実質的に毛細血管の壁でしか問題にならない力だ。 


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膠質(colloid)というのは,コロイドのことだと書いてある。 コロイドというのは? 不規則な大きさの微粒子が液体などの中に分散して浮遊している状態を指す言葉だという。 体液の場合だと,この微粒子の正体は基本的に,浮遊しているアルブミン(albumin)やグロブリン(globulin)などのcolloid-proteinsタンパク質(protein)粒子だ。 膠質浸透圧は水の中に溶けているタンパク質のせいで発生する浸透圧ということになる。

●毛細血管は水分を追い出して取り戻す

血液が毛細血管まで来ると,酸素と二酸化炭素のガス交換が起きると同時に,血液の水分の一部が血圧によって血管の外に押し出される。 この水分が細胞の周りを直接包んでいる組織液(tissue fluid),あるいは間質液(かんしつえき,interstitial fluid)と呼ばれる体液になる。 その一方で,血液は実は毛細血管の壁を通して押し出した組織液の大部分を再吸収する。 膠質浸透圧はこの組織液を回収する力として大事な働きをしているのだ。 

●毛細血管の壁は穴だらけ

毛細血管の壁は扁平(へんぺい)の内皮細胞(endothelial cell)がタイルのように貼りめぐらされてできている。 この細胞でできた壁自体は心臓の中も含めてすべての血管の内側で連続している内壁だ。 一応その外側は基底膜(basement membrane)という結合組織のネットで包まれているものの,毛細血管の細胞でできた壁は,この薄い内壁だけでできている。 

この壁の細胞の継ぎ目はところどころわずかに隙間が空いている部分がある(隙間のない毛細血管もある)。 しかも細胞自体にもところどころ血管の内側と外側を連絡する窓が開いているものもあるという。 そのため,血管の細胞の壁はNaイオンやClイオンなどイオンを自由には通さないのに,水と一緒にこれら無機イオンcolloid-soilも血管の壁の隙間を楽に通り抜けられてしまう。 壁の隙間のない毛細血管では細胞膜の輸送体が水やイオンも活発に運ぶ。 実質的には自由に移動していることになる。 だけど毛細血管の壁は,血漿のタンパク質はほとんど通さないのだ。

※基底膜はアニメーションでは省略

●血漿のタンパク質を取り除けば組織液

血液は真っ赤で,細胞の周りを直接包んでいる組織液(tissue fluid),あるいは間質液(かんしつえき,interstitial fluid)と呼ばれる体液は無色透明だから,ぜんぜん別物に見える。 しかし血液が赤いのは赤血球(細胞)のせいで,細胞成分を除いた液体である血漿は基本的に組織液と似たようなほとんど無色透明ものだ。 組織液の源は血漿なのだから似ていて当然だろう。 ただ,似たようなものだけど,溶け込んでいるタンパク質colloid-proteinの量が血漿には多くて,組織液には少ないという大事な違いがある。 この違いは血漿が血圧で押し出されるとき,水とイオンcolloid-soilは流れていくけど,血漿タンパク質はほとんど通れずに血漿に残ってしまうからだ。 このため毛細血管を液体が横切る現象は「ろ過(filtration)」と呼ばれる。 

●膠質浸透圧に塩分濃度は関係ない

ろ過された結果,タンパク質colloid-proteinが残った血漿とタンパク質の少ない組織液は毛細血管の壁をはさんで向き合うことになる。 そうすると今度はそのアンバランスを解消しようとする力が自然に発生する。 これが膠質浸透圧だ。 ただの「浸透圧」は生理学の世界では,細胞膜に働く力をさしている。 細胞膜が水分子や気体分子以外の水溶性物質は自由には通さないから,その総濃度に応じて水分子が移動してバランスをとる力になる。 それに対して毛細血管の壁は,水もイオンも小さな分子は自由に通すから細胞膜のようなイオンによる浸透圧は生まれない。 塩分濃度がどうだろうが,タンパク質濃度に影響を与えなければ,膠質浸透圧にも影響は無い。 毛細血管の壁で発生する浸透圧はタンパク質の濃度の違いだけによるものなので,「膠質浸透圧」といって区別しているのだ。 

●血漿は組織液を回収する

正常な範囲ではろ過によってタンパク質は血漿の中に残るので,膠質浸透圧は常に毛細血管の中が高くなる。 つまり血漿が水を吸い込む力としてはたらく。 ただし,イオンcolloid-soilも通れるので,実際に吸収されて移動するのは,水だけでなくて,イオンその他も含めてろ過された液体,つまりほとんど組織液そのものなのだ。

●血圧と膠質浸透圧の競い合い

血漿中のタンパク質の濃度はおよそ 1.5 mM で,組織液ではその 10 分の 1 程度しかない。 その結果,血漿の膠質浸透圧はおよそ 25 mmHg といわれる。 この値はそのまま血漿の水分吸収力と考えてもいい。 これに対して,ろ過する力は血圧によるので,毛細血管の動脈側,つまり始まりでは 35 mmHg 程度あるけれど,血管の抵抗があるので,静脈側に行くにつれて下がりつづけて 15 mmHg まで落ちる。 毛細血管の動脈側では膠質浸透圧より血圧のほうが高いので,水分はろ過されて血管外に排出されるけれど,静脈側では膠質浸透圧のほうが血圧より高いので,組織液が毛細血管に吸収されることになる。 腎臓で尿生成のためにろ過される分はとても特殊なので別にすると,それ以外でも,体全体で 1 日におよそ 20 リットルの水分が毛細血管の壁から濾過され,その大部分の 16 から 18 リットルの水分が毛細血管の後半に回収されるという。 差し引きで組織に残った 1 日に 2 から 3 リットルの水分は,リンパ管に吸収されて最終的には心臓の近くの大静脈に回収されて,全体的に水分の循環は帳尻が合うようになっている。

●血漿の回収力はタンパク量で左右される

毛細血管での組織液の回収は血漿の膠質浸透圧によっている。 膠質浸透圧を生むのは血漿と組織液のタンパク質の量の差だ。 ただしく言うと毛細血管の壁を通れない微粒子の”数”が浸透圧に関係する。 このタンパク質の大部分は肝臓で生成されて血漿に供給されている。 血漿タンパク質の量は通常,7.0 g/dl (デシリットル)といわれる。 血漿 10 分の 1 リットルあたり 7 g のタンパク質量ということだ。 そのおよそ 3 分の 2 はアルブミンで,残りの大部分はグロブリンだ。 重量の比では,0.66 : 0.33 になる。 しかし,アルブミンの分子量はグロブリンの平均分子量の 3 分の 2 程度なので,分子の数でいうと,0.66/0.66 : 0.33 = 1.0 : 0.33 = 0.75 : 0.25 で,膠質浸透圧の 7 割以上はアルブミンの量が効いていることになる。 肝臓障害があると,これらのタンパク質の生成が乏しくなり,また腎臓病では血漿タンパク質が大量に尿に混ざって体外に漏れ出して,これも血漿タンパクの欠乏をもたらす。 すると膠質浸透圧が低下し組織液からの水の回収力が低下する。 結果的に水分は組織にたまり続けて,いわゆる浮腫(ふしゅ,edema)を起こすことになる。 そのほかにも,いろいろな理由で血漿タンパク質の量は病的に低下する。

結局,血漿タンパク質が十分だと,血液に水分が吸収されて組織液は適量に保たれ,血漿タンパク質が不足すると,組織液の水分がだぶついて浮腫を起こす。

●血漿タンパク質はわずかに漏れる

毛細血管の壁は基本的に血漿タンパク質を通さないけれど,まったく通さないわけではなく,血管の場所によっても程度は違っている。 それでも正常なら,総体的には体液循環のバランスは取れるようになっている。 だけど,血管の壁がうまくタンパク質を制限できずに,そのまま流してしまうようになれば,血漿の膠質浸透圧は低下し,組織液の膠質浸透圧は上昇するので,水分の回収力が低下して,結果的にやはり浮腫を起こす。 タンパク質を通さない毛細血管の性質は表には出ないけれど,とても大事な働きをしているのだ。

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〇参考にしたサイト

アルブミン, Wikipedia, 2017年6月30日.
037血清アルブミン(Serum Albumin), 今月の分子, 2003-1.
グロブリン, Wikipedia, 2017年7月1日.

○関連する記事

[006] 浸透圧(しんとうあつ)  osmotic pressure 
[004] 陽イオンと陰イオン(1)引力と反発力,cation and anion, attraction and repulsion 
[043] 糸球体のろ過 glomerular filtration
[016] 血液循環 blood circulation
[023] 赤血球とヘモグロビン erythrocyte and hemoglobin
[043] 糸球体のろ過 glomerular filtration
[025] 血管の運動 vasomotor
[013] 細胞膜の脂質二重層 lipid bilayer of the cell membrane

○参考文献

Lehninger Principles of Biochemistry 6th, International Edition, Macmillan Higher Education, England.
カラー版 ボロン ブールペープ 「生理学」, 西村書店
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20140525,rev.20150122,rev.20150717,rev.20160713, rev.20180512, rev.20190503, rev.20200122.

◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)

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