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[003] 腹式呼吸 diaphragmatic breathing (GB#104A01)

[003] 腹式呼吸 diaphragmatic breathing (GB#104A01)

diaphragmatic breathing


●肺に空気を吸う力はない。

肺は,血液のガス交換をするために,空気を入れ替えるごくごく小さな袋「肺胞(はいほう,alveolus)」が何億も集まってできたかたまりで,それ以外のスペースは,すみずみの肺胞に空気を通すためにいくつも細かく枝分かれした「気管支(きかんし,bronchi)」と,同じくすみずみまで血液を循環させる血管網で占められている。
要するに血管を除けば,肺は空気がつまった袋と管でできていて,筋肉はもっていない。 肺自身に空気を吸ったり吐いたりする動きの力はない。

●肺と入れ物はくっついてない

肺は,胸郭(きょうかく, chestthe thorax)というしっかりしたカゴとその底にあたる横隔膜とでできた「胸腔(きょうくう,thoracic cavity)」という入れ物に納まっている。 容器である胸腔が筋肉の力を借りて広がったりしぼんだりするので,それにつられて肺も膨らんだりしぼんだりする。 といって,肺と胸腔はくっついているわけではない。 むしろくっつかないようにわずかな隙間がある。

この隙間を「胸膜腔(きょうまくくう,pleural cavity)」といって,ここが大事だ。
※「腔」という字は国語的には「こう」と読むのが正しいらしいけれど,医学解剖学用語としては,誰かが間違って読み出した「くう」(空っていう字が入っているからね)と読む用語が一般的になっていて,言ってみればこれは業界用語である。 「胸膜」というのは肺のかたまり全体を包んでいる薄い膜「臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)」,それと胸郭の内側の壁を覆っている薄い膜「壁側胸膜(へきそくきょうまく)」の二つの膜。 その二つの胸膜の隙間が胸膜腔になる。

アニメーションでは気管支につながった丸い袋が肺胞のかたまりの肺全体で,水色の部分が胸膜腔に相当するけれど,実際はこの隙間は空気の入っている「空間」ではなくて,ごくわずかの薄い体液で満たされているものの,ほとんど隙間はない,けど隙間はある(?)。 この薄い体液「漿液(しょうえき)」のおかげで,二つの胸膜はくっつき合わないで,胸腔の中で肺の膜はよく滑るようになっている。

呼吸呼吸

●息を吸うとき,横隔膜は縮む

横隔膜(おうかくまく,thoracic diaphragm)は胸腔と腹腔(ふっくう,abdominal cavity)を隔てている壁だ。 この壁は中央の結合組織を中心にして線維が放射状に広がる筋肉ででてきている。 横紋筋であり,作りも動く仕組みも骨格筋の仲間だ。 

胸腔が膨らむとき,壁は伸びるイメージがあるかもしれない。 だけど,横隔膜の筋は息を吸うときに縮む。 胸腔が小さくなった,つまり息を吐いたときに伸び切っていて,横隔膜はその下の腹腔からの圧力によって上の方に強く押し込まれている。 息を吸うときには,横隔膜に力が入って腹腔を下に押し戻す。 これで胸腔が広がる。 意識的にこの横隔膜の力だけを利用した呼吸法が「腹式呼吸(ふくしきこきゅう,diaphragmatic breathing)」だ。 今回のアニメーションは腹式呼吸。

横隔膜は「内臓」だけど,筋肉は骨格筋で,手足と同様に運動神経で動かされている。 横隔膜のまわりの筋の神経はみな,そばの脊髄から出ているのに,横隔膜を動かす神経はどういうわけか,なんと,首の上から出ている横隔神経(おうかくしんけい,phrenic nerve)だ。 重度の頸髄損傷になったら首から下は麻痺してまって肋骨は動かせなくなる。 しかし,横隔神経は傷つかないで腹式呼吸ができるので窒息することはない。

**********

●「胸膜腔内圧は常に陰圧である」

これは国家試験での決まり文句だ。 陰圧(いんあつ,negative pressure)というのは吸い込む力だ。 ストローでジュースを吸いこむとき,口の中は陰圧だ。 つまり,この隙間の圧力が大気圧よりも低い,陰圧であることで,肺(肺胞)が胸郭に引っ張られて広がっていて,これは肺胞が空気を吸うときももちろん,吐き出すときもやはり胸膜腔の陰圧は保たれているということだ。 なぜって,吐き出すときにこの隙間の圧力が大気圧より高くなって陽圧だったら,肺胞はつぶれてしまうだろう。

いったんつぶれてしまった肺胞は容易に広がらない。 中がぬれてつぶれたポリ袋を外からつまんで広げようとしても難しいのと同じだと教科書には説明してある。
だから肺胞は,空気をめいっぱいに吐き出してもつぶれないように,常に陰圧で引っ張られて膨らんでいるのだ。 空気を思いっきり全部吐き出して肺を空にしたと思っても,およそ1リットルくらいは必ず,肺の中に空気が残っていることになる。 この空気の量は「残気量(ざんきりょう,residual volume)」という名前がついている。

●胸膜腔に空気が入ったら大変

肺胞も胸膜もともに大変薄い膜だ。 胸膜腔は常に陰圧だから,肺の壁に小さな穴があいたらたちどころに肺胞から空気がもれてくる。 その分,肺胞はつぶれてしまう。 呼吸運動で胸腔が広がるたびに肺はどんどんつぶれて,肺胞の呼吸ができなくなる。 これは「気胸(ききょう,pneumothorax)」という名前がついていて,特に珍しい病気ではないらしい。

●胸膜腔内圧は陽圧にならないのか

常に陰圧である,の陰圧が「大気圧に対して」ということなら,このフレーズには「自然な呼吸をしているとき」という但し書きがつく。 息を止めて身体にぐっと力を込めるとき,風船を膨らませるとき,肺には当然,大気圧以上の圧力がかかっている。 だから胸膜腔にも大気圧以上の圧力はかかっているだろう。 しかしこのときでも,肺胞と胸膜腔の圧力を比べたら,肺胞よりも胸膜腔のほうが圧力は低くなっているはずだ。 そうでなければやはり肺胞はつぶれてしまう。

肺の周りが陰圧であることは,肺胞の血液循環を考えても重要だ。 息を止めて胸腔を締め付けたとき,肺の中の血管も締め付けられている。 その間,肺胞での血液のガス交換も止まってしまっているだろう。 だから逆に,肺の周りの圧力はできるだけ下げていたほうが肺の血液循環は良くなる。 深呼吸をして胸腔を広げると,空気の出入りばかりでなく,血液のガス交換もより容易になるのだ。

肺胞についてもっと知りたい
胸膜腔についてもっと知りたい

※実はインターネット上でお勧めできる解説はなかなかみつからない。きちんとしたサイトでも,はっきり間違っている内容があるので注意しよう。

⇒「陰圧」という言葉がわからない,と言われました。実用的な説明をすると,「吸い込む力」ということです。上にも書いたように,ストローでジュースを吸い込むときの力のほか,電気掃除機でゴミを吸い込むときの力,さめたお汁碗のフタが開かなくなったときの力,出前のうどんにかぶせてあるラップがへこんでしまって汁についてしまっているときのあの吸い込む力です。

ゴム風船を口の中で吸い込んで膨らませる実験でこの陰圧を体験させるのが,一番効果的のようですが,まちがって吸い込んでしまうと困るので授業などで一斉にやらせるのはちょっと躊躇しますね。
解剖生理学 13話「気管と肺」(たませんせいの授業)

○関連する記事

[015] 胸式呼吸 costal breathing
[010] 肺胞換気量と死腔 alveolar ventilation and dead space
[050] 細胞呼吸 cellular respiration
[011] 体内の酸性・アルカリ性と炭酸ガス body acid-base reaction and carbon dioxide gas
[023] 赤血球とヘモグロビン erythrocyte and hemoglobin
[029] ヘモグロビンの酸素解離曲線 oxyhemoglobin dissociation curve
[016] 血液循環 blood circulation

○参考文献

臓単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (内臓編))
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20150429,rev.20160403,rev.20170205, rev.20180714.

◆こころ医療福祉専門学校
http://kokoro.ac.jp/

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コメント

    (ceoKIKKENより) [2012/09/18][7:08 PM]

    しろうとには見当がつかないものが多いですね。横隔膜はたしか「サガリ」じゃなかったかなと調べたら、サガリは豚肉で、ハラミは牛肉に使うと書いてありました。 小学生のころからいいもん食べてたんですね(笑)。横隔膜の厚さは今度の解剖学実習で確かめてみてください。

    (TAKAより) [2012/09/18][3:29 PM]

    焼き肉屋でいつも頼むメニューはハラミです。小学生の時、「ハラミって横隔膜のことだよ!」と父に教えてもらった時、とても驚いた事を覚えています。膜の割にはやけに肉厚ですね・・・人間の横隔膜も肉厚なんでしょうか?

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ポイントを伝えるために大胆に要約しています。なお、内容には基礎医学教育研究会独自の解釈や表現が含まれています。あらかじめご了承ください。

できるだけ間違いのないように気を付けていますが、まったくないとは言えません(^_^;)(結構あります)。不明な点はご指摘いただけると助かります。 ※過去の記事でも、必要に応じて頻繁に修正しています。このオンラインの記述が最新版です。

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