[046] 消化と代謝 digestion and metabolism (GB#105A02)

[046] 消化と代謝 digestion and metabolism (GB#105A02) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab

消化と代謝digestion and metabolism
●消化は身体の外で,代謝は身体の中で

食べたものは消化管の中で,管の表面から体内に吸収される単位までばらばらに消化される。 消化管の壁の細胞膜を越えると”身体の中”になるけれど,消化(digestion)は吸収の準備として,管の中,”外の世界”で行われる作業だ。 

吸収された栄養素は身体の中で,代謝によって,ごく大雑把に言うと,エネルギーを抜き取られたあと,結局,炭酸ガスと水分と窒素化合物の姿で,つまり,息と尿,それに汗などで再び外に捨てられる。 あれ,うんこは? うんこ(大便)は吸収されなかった残り物,それに腸の細胞の入れ替わった残骸(加えて腸内細菌とその残骸)たちだ。

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●栄養素は消化のあとで吸収される

栄養素はそのままの姿では体内に吸収されない。 口から入れるものは別の生き物の産物だ。 そのままでは自分の身体に合わない物もいっぱいだ。 結局,同じ栄養素の化合物が体内で必要だとしても,それだけ特別ルートで取り込んだりというような,細かいことはやらない。 すべての栄養素はいったん,バラバラの部品に分解しないといけない。 部品で吸収して,体内であらためて必要な物を組み立てなおす。 一方で身体の中にあった物質は,入れ替わりにそれぞれの部品にばらされたら,さらにばらされてエネルギーを抜き取られて,残骸が体外に捨てられる。 これが消化と吸収と代謝のごくごくおおざっぱなプロセスだ。

●消化される栄養成分は3種類

met-stm.gif日本の厚生労働省が定めた「栄養表示基準」によると,栄養成分とは,1タンパク質,2脂質,3炭水化物,4(無機塩類 13 種),5(ビタミン類 13 種)だそうだ。 そのうち最初の 3 つを合わせて三大栄養成分と呼んでいる。 

身体に吸収されるためには,タンパク質(protein)は単量体(monomer)であるアミノ酸(amino acid)に,脂質(lipid)は構成部品であるグリセリン(glycerine)と脂肪酸(fatty acid)に,炭水化物(たんすいかぶつ,carbohydrate)は単量体の単糖(たんとう,monosaccharide)に,それぞれを構成する単位の成分まで消化されないといけない。 三つの成分ごとに,消化の仕組みが違っていて,さらに吸収,代謝もそれぞれの仕組みがある。 細かく言い出すときりがないけれど,その大きな流れを押さえておくことが大事だ。

●消化できる炭水化物はごく限られている

さて,教科書によっては,「糖質」,脂質,タンパク質を三大栄養素(nutrient)としてかかげてある。 日本語的にはこっちのほうが全部,「質」で終わって語呂がいい。 だけど,糖質と炭水化物は同じものだろうか。 炭水化物と糖質は英訳では carbohydrate とひとくくりにされていて,だから同じものだと思っていたら,日本の「栄養表示基準」には,「炭水化物の量」は「糖質及び食物繊維の量」と置き換えることができる,とあるので,「糖質」は食物繊維以外の炭水化物とみなされているようだ。 「食物繊維」(dietary fiber)というのは,ヒトの消化酵素が働かず,ヒトの力で消化されない炭水化物類をまとめて呼ぶ言葉だ。 つまり日本ではヒトが「消化できる炭水化物」を「糖質」と呼んでいる。 あえて英語で表現すると,nutritional carbohydrate(栄養になる炭水化物)というらしい。

 とにかく,ヒトの口に入る炭水化物のうち,消化できるものは多くない。 多糖(polysaccharide)では,でんぷんとグリコーゲン(glycogen),どちらもブドウ糖(glucose)の重合体だ。 それと3種類の二糖(disaccharide),つまり,ショ糖(sucrose),麦芽糖(maltose),乳糖(lactose)だけだ。 

野菜の乾燥重量の半分程度を占めているセルロース(cellulose)は植物の細胞の壁(細胞壁,さいぼうへき,cell wall )を作っている物質で,デンプンのいとこのような炭水化物だけれど,ヒトはそのセルロースを分解する消化酵素を持たないので,消化できない。 ただし,食物繊維の一部は,腸の活動を助ける腸内細菌のエサとして,腸内細菌が消化することで,この頃,注目されている。 これらの細菌に消化,分解されて,乳酸や酢酸などになって吸収されるので,それなりの栄養的な価値はあるみたいだ。

●糖質と脂質はエネルギーのかたまり

糖質と脂質は,どちらも構成する元素は炭素 C と酸素 O と水素 H の 3 種類で同じだ。 糖質は酸素の量が多くて,脂質にはごく少ないという違いがある。 もっと大事な違いは元素のつながり方の違いのせいで,糖質は水分を含みやすくて,脂質は水分をはじくという性質をもっている。 どちらもアデノシン三リン酸(ATP)を介して体内で使われるエネルギーのかたまりとして大事だけど,同じエネルギー量の脂質は糖質より軽いから貯蔵に向いている。 その代わり,糖質は脂質よりもエネルギーをすぐに取り出しやすいというのが利点だ。 水分との関係がまったく違うので,身体に取り込むときの消化と吸収の仕方にも大きなちがいがある。 

●蛋白質は窒素をもっている

一方,タンパク質は,エネルギーとしてより,身体の中で新たなタンパク質を作るときの材料として利用される。 たんぱく質は 20 種類あるアミノ酸の中から順番にいろいろな組み合わせでつなぎ合わせて作る巨大分子だ。 それぞれのアミノ酸は炭素,酸素,水素に加えて必ず窒素Nを持っているので,タンパク質には多量の窒素 N が含まれている。 

タンパク合成に使われる 20 種類のアミノ酸のうち,半分ほどは他のアミノ酸などから作ることができる。 ところが,残りの半分,9 種類はヒトの体内で作ることができないので,必須アミノ酸(essential amino acids)と呼ばれている。 「必須(ひっす)」というのは,必ず栄養素として摂らないといけない,という意味だ。 タンパク質は水分と馴染みがよいので,消化と吸収の方式は糖質と似たところがある。

●消化酵素は水溶液の中で働く

met-intest.gifでんぷんとグリコーゲンは主に小腸(small intestine)の水溶液の中で消化酵素(digestive enzymes)の直接攻撃を受けて二糖の麦芽糖に分解された後,小腸壁の細胞膜の表面の酵素で切り離されてブドウ糖になり,直ちに小腸上皮細胞(しょうちょうじょうひさいぼう,small intestinal epithelial cell)に取り込まれる。 糖質はリン脂質でできた細胞膜にははじかれるので,取り込みには専用の運び屋が必要だ。 

一方,消化される脂質は基本的に,グリセリンと脂肪酸が結合した中性脂肪(ちゅうせいしぼう,neutral fats)の形をとっていて,小腸の水溶液の中でやはり消化酵素の攻撃をうけて,脂肪酸とモノグリセリドに分解する. (以前は,中性脂肪の分解産物は脂肪酸とグリセリンと記載されていたが,最近の教科書で,脂肪酸とモノグリセリドに変更されたという。) ただし,中性脂肪は水分をはじくので,酵素が働くためには脂質と水分の馴染みをよくする作用のある胆汁(たんじゅう,bile)の助けを必ず借りなければならないのがひと手間だ。 その代り,細胞膜に接すると,脂肪酸とモノグリセリドは細胞膜を単純な拡散(diffusion)で通り抜ける。 

タンパク質は,まず胃の強い酸性の水溶液の中で消化酵素で適当にぶつ切りにされたあと,小腸で新たな消化酵素の攻撃を受けて, 2 個から数個のアミノ酸でできた小さいペプチド(peptide)に分解される。 そのあと,最終的に細胞膜表面で個々のアミノ酸に切り離されて直ちに上皮細胞に吸収される。 アミノ酸の吸収も単糖と同じような仕組みで,細胞膜にあるアミノ酸専用の運び屋が取り込む。

●肝臓にすぐ届くもの,あとで届くもの

小腸上皮細胞に取り込まれた単糖とアミノ酸は,そのまま細胞の裏口から,ここにも専用の運び屋がいる,抜けて,そばを走る毛細血管に拾われて門脈(もんみゃく,portal vein)を通って肝臓(liver)で処理される。 met-lever.gif一方,同じく細胞に取り込まれたモノグリセリドと脂肪酸は,細胞の中で新たな中性脂肪として再構成されて,今度はカイロミクロン(chylomicron)という袋詰めにされて,細胞の裏口から抜け出る。 

カイロミクロンは基本的に,毛細リンパ管に拾われてリンパ系に集約されて心臓のそばで大静脈に合流するから,肝臓は通らずに,肺循環(pulmonary circulation)を経て全身の体循環(systemic circulation)に回る。 これがどういう意義があるのか自分にはよくわからない。 とにかく脂質を必要とする組織を巡って,細胞とやり取りをした後のカイロミクロンを含むいろいろな脂質がようやく肝臓に回って処理される仕組みになっている。 カイロミクロンに入らない小さな脂肪酸などは毛細血管から直接,肝臓に移動するという。

●必要に応じて蓄積されたり分解されたり

血液を流れる単糖のうち大部分を占めるブドウ糖の一部は,脳みそ(brain)赤血球(erythrocyte)の唯一のエネルギー源としてそのまま使われる。 残った分は肝臓や筋の細胞に取り込まれてグリコーゲンとして,余裕があれば脂肪組織に取り込まれて中性脂肪に変わったりして,必要になるときまでのエネルギー源の在庫として蓄積される。 

血液を流れる脂質は,常に力を入れている筋や心臓のエネルギー源として使われ,これも余裕があれば,そのまま脂肪組織などで中性脂肪として蓄積される。  肝臓は余ったアミノ酸も糖質と同様に脂肪酸に変換して蓄積する。 食事と食事の間のお腹がすいている時間は,貯めこんだグリコーゲンや中性脂肪を順番に取り崩して使っているのだ。met-muscl2.gifただし,筋のグリコーゲンは筋自身で使ってしまうのに対して,肝臓はグリコーゲンを自分のエネルギー源としては使わない。 肝臓のグリコーゲンは脳の活動に必要なブドウ糖の供給源だからだ。 肝臓自身は食事のときでも空腹でも,超込み入った代謝活動をしながら,脂肪酸やアミノ酸を利用して必要なエネルギーを取り出している。 

●アミノ酸は他の物質にも変身する

アミノ酸は全身の細胞に取り込まれて,それぞれの細胞の骨格や酵素や受容体などの細胞機能を維持するためのタンパク(protein)の材料として使われる。 特に筋ではアクチン(actin)やミオシン(myosin)などの筋収縮のためのタンパクが大量に作られる。 また肝臓ではアルブミン(albumin)をはじめとする種々の血漿タンパク(けっしょうたんぱく,plasma protein)を作っている。 

タンパクに限った話ではないけれど,身体の物質は,作られる一方で,どんどん壊されてる。 タンパク質も再びバラバラのアミノ酸に戻されて,余ったアミノ酸をはじめとする窒素 N を含んだ化合物は,肝臓の代謝でエネルギーを抜き出したり糖や脂肪に変えられたり,最終的には尿素(にょうそ,urea)などの排泄用の物質に変えられる。

●エネルギーを取り出したら抜け殻に

エネルギーを取り出す源の物質は,炭素と水素の骨格が基本だ。 一番単純な構造はメタン(CH)で,これはヒトの身体の構成成分じゃないけれど,酸素を作用させると火を噴いて燃える(爆発する)。 エネルギーを発散するのだ。 結果,エネルギーをもたない水 H2O と二酸化炭素 CO2 が出来上がる。
 CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O + エネルギー
ヒトの身体の代謝も,はしょってしまうと同じことだ。 エネルギー源の代表の単糖は C6H12O6 で最初から酸素が一部結合していてガスじゃないから扱いやすい。 身体の中では一気に爆発しないように,じわじわとエネルギーを抜き取る作業をしているのだ。
 C6H12O6 + 6O2 → 6CO2 + 6H2O + エネルギー
中性脂肪はもちろんのこと,窒素をもぎ取られた(元)アミノ酸も,結局はエネルギーを抜き取られたら水と二酸化炭素になる。 窒素が気体の窒素ガスのカタチで出て行かないのは,二酸化炭素と違って,空気中の 8 割弱を占める窒素ガスの量が多すぎて排泄が難しいからだろう。

●エネルギーも身体を通り抜けていく

つまり,ごはんやパンや肉の塊を食べると,うんことして出ていくのは,8 割を占める水分は別にして,大部分が食物繊維と腸内細菌などもともと吸収されなかった物質などのかたまりだ。 かたまりの 3 分の 1 は腸の壁からはがれた細胞の残骸らしい。 うんこの水分は身体から吐き出される水分の 4 % 程度なので,つまり,大腸から出ていくのは,身体の中で代謝された分解物じゃないものが大半なのだ。 

met-breath.gif 身体に利用された栄養素は,エネルギーを抜き取られた後,結局口から吐き出される二酸化炭素や,尿や汗などの水分として消えていく。 尿の中の窒素化合物はもとはタンパク質の窒素だ。  エネルギーは身体の物質を合成したり,壊したり,動かしたりする原動力として使われるけど,最終的には熱として体温を維持しながら身体の表面から逃げていく。 met-urea.gif 

子供から大人への成長期は別として,入ってきた分は出ていくので,結局何も残らない。 そもそも生まれた命は成長してもいずれ必ず最後を迎えて消える。 命の尊さはそのさ中にけっして動きを止めない,物質とエネルギーのやりとりのプロセスそのものにあるんじゃないかな? その上で,”文化”や”情報”は,人間が消費するエネルギーの一部から生み出されているのだろうけど,その見積もり方は残念ながら,知らない。

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○参考にしたサイト

栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号) – 消費者庁
経腸栄養法, キーワードでわかる臨床栄養, ニュートリー株式会社
尿素回路, 脂質と血栓の医学
うんちは何で出来ているか, うんちから腸内環境がわかる, 大鵬薬品

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○参考文献

Lehninger Principles of Biochemistry 6th, International Edition, Macmillan Higher Education, England.
Essential細胞生物学〈DVD付〉原書第3版,南江堂
カラー版 ボロン ブールペープ 「生理学」, 西村書店
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20140114,rev.20140115,
rev.20151225,rev.20160123, rev.20170506, rev.20170520,rev.20180709, rev.20190503, rev.20190503, rev.20200829, rev.202010301.

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