[016] 血液循環 blood circulation (GB#103D01) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab
●心臓と肺はつながってる
身体のことをきちんと勉強した人から見ると何を今さらだろうけど,素人にとっては,血液を回しているポンプと空気を出し入れしている袋が切っても切れないくらい結びついていることは予想外らしい。
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●心臓は肺の付属品?
心臓がなくなったらもちろん身体は生きてはいない。 肺がなければ窒息するから身体は生きてはいない。 だからどちらも命に欠かすことはできないことはわかる。 両方が直結していることはつい見逃しがちになるようだ。 実のところ,肺がなければ心臓は動く意味がなくなるのだ。 心臓は肺できれいにした血液を回すために鼓動を打ち続けている。 むしろ心臓は肺の付属部品のようなものかもしれない。
●血液は1分間で全身を回る
安静の状態であれば心臓は 1 回の拍動でおよそ 70 ml の血液を動脈に押し出す。 安静時の心臓の拍動は 1 秒に 1 回よりは若干多めで,1分間におよそ 70 回程度であり,1分間の拍出量は計算すると合計 70 × 70 = 4900 ml になる。 ほぼ 5 リットルだ。 本ではよく 1 分間に 5 リットルの血液が流れていると記されている。 大人の体の全血液量がだいたい 5 リットルという。 1 分間で全身の血液量が心臓を流れることになる。 別の見方をすると,血液は 1 分間で全身を回ることになる,と言われている。 近いところは早く回り,遠いところは時間がかかるだろうから,あくまで平均での話だ。
●すべての血液は必ず肺を流れる
流れる血液は必ず心臓を通り抜ける。 手の血管に送られた血液はその後,足には行かずにそのまま心臓に戻る。 足の血管に送られた血液は胃腸には行かずに心臓に戻る。 しかし手から戻った血液も,足から戻った血液も,胃腸から戻った血液も,心臓に戻ってきた血液はただちにすべて肺に送られる。 ということは? 同じ時間,全身に回る血液量と肺だけを流れる血液量が同じだということだ。 つまり 1 分間に 5 リットルが全身に回されるなら,肺だけにも 1 分間に 5 リットル流れている。 よく考えるとこれはすごいことではないだろうか。
肺に分布する血液量は全血液量の 10 % 程度だというから,0.5 リットルの容量のところに 1 分間に 5 リットルの血液が流れるということは, 1 分間に容量の 10 倍の血液が入れ替わる。 1 分間に 5 リットルという流速は同じでも,身体全体の血液がほぼ一回入れ替わる間に肺の組織は 10 回分入れ替わっているのだ。 容量は小さいけれど,体中から集めてきた炭酸ガスをすごい勢いで吐き出して,代わりにほぼ同じ量の酸素を血液に吸収させている。
●肺の血液は低圧でよく回る
血液が流れるスピードは体循環と肺循環は同じだけれど,右心室の圧力は左心室の 5 分の 1 程度で充分だ。 戻ってくるまでの距離が短いというのもあるけど,肺の毛細血管のネットワークは体循環よりずっと発達していて,総断面積は広いので,血流の抵抗は体循環よりずっと低い。 ガス交換を行う肺胞周りの毛細血管と肺胞そのものの壁は身体の表面をおおう壁としては最も薄い。 だから血圧が低いということは大事なことだ。 肺を流れる血液の血圧が高くなりすぎると血管が容易に破れてしまう。 破れないまでも血液の水分,血漿(けっしょう)が簡単にもれ出てしまい肺に水が溜まってしまったりする。
●体循環血液量の 80 % は静脈に分布する
血液は肺で酸素をもらって体の隅々まで組織に酸素を渡したら,できるだけ早くまた酸素をもらいに肺に戻るかと思ったら,そうでもないらしい。 むしろ一旦酸素を運ぶ仕事をしたら,ちょっと一息つくように広い静脈のスペースでゆっくり流れるようだ。 肺循環を除いた血液 4.5 リットルの 80 % は静脈にある。 動脈に流れているのは 20 % というわけだ。 4 倍も静脈にいる時間の方が長いのだ。 なんだか悪い血が溜まっている,というイメージは良くないけど,静脈の大きな容量は必要に応じて動脈血の量を少し増やしたり減らしたり調節するためのストックとして大事な働きを持っているらしい。 身体の各部分や臓器を流れる血液量はその活動が活発か不活発かによって結構大きく変化するようだ。 急に運動を始めるとストッカーからの供給は間に合わずに血液が内臓から筋に移動する。 逆に急に運動を停止すると,血液が筋から内臓に移動する。 あまりにもこの移動が激しい場合には内臓に出血を起こすこともあるという。 徐々に運動を緩めていけば静脈のストッカーがうまく働いてこのような障害を防ぐことができるのだ。
●心臓の拍出量は最大で 7 倍になる
心臓の拍出量は 1 分間で 5 リットルというのは安静時の値で,身体が活動すればガス交換の要求量も増えるので,心臓の活動は活発化する。 最大では 1 分間に 35 リットルも流れるようになるという。 このとき,肺にも同じだけ流れるということは上に書いたとおりだ。
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○参考文献
・ぐるぐる回す循環器 文光堂 (2013/11)
・臓単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (内臓編))
・カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
・人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
・トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
・イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社
rev.20170128,rev.20170129,rev.20170204,rev.20170205,rev.20170504, rev.20180514.
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