[013] 細胞膜の脂質二重層 lipid bilayer of the cell membrane (GB#101E01)

[013] 細胞膜の脂質二重層 lipid bilayer of the cell membrane (GB#101E01) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab

lipid bilayer of the cell membrane
●脂(あぶら)の膜が細胞を包んでいる

細胞は閉じた袋になっていて,中身と外側の世界は細胞膜(cell membrane)で完全に仕切られている。 細胞は密閉された部屋だとすると,部屋にはドアや窓,換気扇などがついているけれど,ただの壁の部分にあたるのが,細胞膜の基本となるつくりであるリン脂質(phospholipid)という脂の分子が規則的に並んだとてつもなく薄いシートだ。

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●リン脂質が並んでシートを作っている

細胞膜を説明する図ではひとつのリン脂質を PLP020.gif のような形で表すのが定番だ。 ○ がリン酸基を含む構造で二本足の || が炭素と水素でできた2本の脂肪酸分子に相当する。 これがずら~っと平面上に並んでいる。 裏と表と二層になっているので,まとめて「脂質二重層膜(lipid bilayer)」という構造になる。 隣り合った脂質分子や裏表の分子がお互いに分子結合して巨大分子になっていると思ったら,ただ寄り添って並んでいるだけだというのが,なかなか実感としてピンと来ない。 だけど,そうなっているらしい。 こんなんだとすぐに破れてしまうような気がするけれど...

●薄いにも程がある

ほんとになんで破れてしまわないのか不思議なほど薄い。 とにかく脂質分子が二層に並んでいるだけなのだから。 実際の細胞膜の厚さは構成成分でも変わるし,きちっと確定したものでもないとはいえ,だいたい分厚いほうでも 10 nm (ナノメータ),薄いほうだと 3 nm くらいだそうだ。 ナノメータという単位は 10-9 m という意味で,10 nm として 1 億分の 1 メートル,ミリでいうと 10 万分の 1 ミリの厚さというレベルだ。 細胞の大きさもいろいろだけど,直径が 100 μm だとすると,その 1 万分の 1 という厚さだ。 厚さが 100 μm のちょっと厚手のコピー用紙を細胞膜に見立てて,それで細胞のモデルの箱を作ると,一辺が 1 メートルの箱くらいになる。 床の上だとほとんど形を保ってはいられないだろう。 やっと薄さが実感できたかな。

●細胞膜を通るものと通らないものがある

脂質の基本的な性質として,水をはじいて脂となじみがよい。 ただリン脂質のリン酸基のある部分だけは水となじみのよい親水性(hydrophile)をもつので一斉に外側を向いているのだ。 このような状況なので,リン脂質膜はなんでも遮断するただの壁ではなくてちょっと複雑な性質を持っている。 まず酸素や二酸化炭素などの気体分子は自由に通り抜ける。 ステロイド(steroid)や脂肪酸(fatty acid)などの脂質分子も楽に通り抜ける。 これには外側の親水性の部分はあまり妨げにはならないらしい。 これらは濃度の高い区分から低い区分へ濃度勾配(concentration gradient)に沿って膜を通り抜けて行く。 このような移動は間に膜があってもなくても,速度が遅くなるのはともかく,関係ない,拡散(diffusion)という。 脂質二重層膜は意外なところでは,脂質の膜なのに水分子も“比較的”楽に通り抜けるという。

それでは何に対しての壁なのかというと,大きな分子は何だって通さないけれど,小さな分子でも細胞膜は水溶性の物質が嫌いだ。 特に糖質(carbohydrate)ペプチド(peptide),アミノ酸(amino acid)のような水溶性物質,それと電気を持ったイオン(ion)の出入りを遮断するのは得意だ。 しかし,これらは生きている細胞膜では実際は通り抜けている。 ブドウ糖などは通らなければ細胞は利用できない。

結局通り抜けるのなら膜の意味はないではないか? というわけではなくて,脂質二重層膜が遮断しているこれらの物質は,ある特別の仕組みで,その移動する時期と量それに方向を選んで通している。 その流れをきちんとコントロールするために,脂質二重層膜による遮断が大切なのだ。 部屋の出入りだって通り抜けられない壁があるからドアや窓の意味があるでしょう。 実際の脂質二重層膜は気体などよく通すものもあるから,壁というより,メッシュの仕切りみたいなイメージの方が近いかもしれない。 それにドアや窓がついている部屋を想像してほしい。 虫かごか!! ドアや窓にあたる細胞膜のしくみは「チャネル」「担体(たんたい,transporter)」「ポンプ」など色々な装置だ。

●細胞膜は浸透圧を発生させる

ただ,虫かごのイメージでだいぶ違うところは,実際の細胞膜はたしかに水は通すけれど,それほどダダ漏れしないということだ。 よく細胞膜は“自由に”水を通すと記述されているが,それだと虫かごと一緒だ。 虫かごをざぶんと水につけてごらん。 そうするとメッシュを通して水が出入りするだろう。 ほんとに水が”自由に”通り抜けるというのはそういうことになる。 細胞の様子とはだいぶ違う。 実際は膜がある分,むしろ通りにくい。 それでもイオンや糖質などに比べればずっと通りやすいというところか。 定量的な値は教科書レベルでは探してもほとんどヒットしないけれど,はっきり通さない物質に比べるとずっと通りやすいという,膜と水分子の性質は生理的には重要だ。 この性質のせいで細胞には浸透圧(しんとうあつ,osmotic pressure)がはたらいている。 基本的には細胞の内容物の濃度が細胞外よりも若干高めになっていて水は(差し引きで)細胞の外から細胞内に引き込まれる状況にあり,浸透圧だけを考えれば,そのせいで細胞は若干膨れている。 そのため組織は一定の緊張状態にあるのだ。 水が中には入ってその圧力で細胞が膨れるのだから,ほら,水は自由には出ていかないだろう。(← 水分子で直接,細胞膜を押しているのではなくて,透過しない粒子を水分子で分散させることで膜を押していると考えられるので,この説明は変ですね。) 実際の細胞膜にはアクアポリン(aquaporin)といって水分子を選択的に通す水チャネルがあって,素の脂質二重層膜よりも何十倍も水分子の透過速度が高くなっているけれど,それでも細胞から水がダダ漏れすることはない。

※実際,純粋な脂質二重層膜だったら弱くてすぐに破れてしまう。 だけど,細胞膜は裏打ち構造があって,これが機械的強度を上げているし,この裏打ち構造は細胞の形も支えているらしい。

※「細胞の分子生物学(第4版)」によると,水の透過係数はおよそ 10-2 cm/秒 で,イオンに比べると 109 倍も膜を通りやすいという。
※細胞膜を作っているリン脂質は肝臓で合成されて血流にのって全身に供給されるという。

脂質二重膜についてもっと知りたい
水チャネルについてもっと知りたい

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○参考文献

なっとく解剖生理学〈1〉やりとりする細胞と血液 文光堂 (2013/11)
プロッパー細胞生物学,化学同人
Essential細胞生物学〈DVD付〉原書第3版,南江堂
細胞の分子生物学, ニュートンプレス; 第5版 (2010/01)
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20170211, rev.20180325.

◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)

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    (ceoKIKKENより) [2014/06/01][10:37 AM]

    シビアなコメントありがとうございます。ヽ(^o^)丿
    確かに細胞膜のアクアポリンは水分子の通過を格段に促進しますが、アクアポリンがなければ通過できないというわけではありません。たとえば、Essential細胞生物学のp389にも書いてありますが、水分子のような電荷をもたない極小の分子は、脂肪酸の疎水性の隙間をかいくぐって割と簡単に通り抜けていくようですね。
    脂質膜があるていど水を通す性質は昔から知られていたので、特別な装置は必要ないだろうと思われていたところに、水チャネルが見つかって、腎臓の水再吸収などの大量に水を通す細胞膜の謎が解明されて大きな話題になった(ノーベル賞もらった)という流れだったように思います。もっとも特殊な細胞でなくてもアクアポリンは少しはあるということですので、アクアポリンがあればわざわざ二重層膜を抜けていこうという水分子は少ないかもしれませんね。 
    これからもコメントよろしくお願いします。
    > > 水が細胞膜を通り抜けるのは細胞膜が水を通すのではなくてアクアポリンという専用の通路を使っているだけなので細胞膜自体に水を通す力はない気がするのですが…

    (匿名より) [2014/06/01][8:30 AM]

    水が細胞膜を通り抜けるのは細胞膜が水を通すのではなくてアクアポリンという専用の通路を使っているだけなので細胞膜自体に水を通す力はない気がするのですが…

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