[010] 肺胞換気量と死腔 alveolar ventilation and dead space (GB#104C01)

[010] 肺胞換気量と死腔 alveolar ventilation and dead space (GB#104C01) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab

alveolar ventilation and dead space

呼吸運動をしていても呼吸していない?

普通に意識しないで呼吸をしていると,一回の呼吸あたり 400 ミリリットルから 500 ミリリットルくらいの空気が口から出入りしているという。 この量を一回換気量(tidal volume)と呼ぶ。 換気というのは空気を入れ替えているということだ。 もちろん肺の中の古い空気と新しい空気を入れ替えているわけだけど,古い空気というのは酸素 O2 が一部減って,代わりに炭酸ガス CO2 が増えている。 ちょうどガスの中身が入れ替わっているのでガス交換(respiratory gas exchange)と呼ばれている。

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●酸素を吸いこんだ細胞は炭酸ガスを吐き出す

alveolar ventilation and dead space炭酸ガスは身体のなかの多くの細胞のひとつひとつが生活に伴って排出したものだ。 細胞はブドウ糖や脂肪酸など炭素原子を骨格として酸素や水素を含む物質を栄養源として,それを分解することでエネルギーを取り出している。 炭酸ガスはエネルギーをすっかり取り出した後の,いわばカスのようなものだ。 この栄養源を分解する過程はその最終段階で新たに酸素をつぎ込む必要があり,そのためひとつ一つの細胞が酸素を吸いこんで入れ替わりに炭酸ガスを吐き出す。 (中途半端な段階で取り出しをやめる細胞もある。それらは,酸素も吸わないし炭酸ガスも出さない。) 肺から出る炭酸ガス血液が体中から集めてきたもので,肺に吸い込まれる酸素は体中に分配するために血液が取り込んでいく。 肺の呼吸運動による換気はこのガス交換のために行われるものだ。

●出入りする空気が全部ガス交換されるわけではない

ところが,この呼吸で換気される空気のうち, 3 分の 1 程度は無駄になっているらしい。 何故かというと,ガス交換というのは肺の中でも,肺胞(alveoli)という末端の部分でしか起こらないからだ。  口や鼻からのどを通り抜けて気管,気管支,さらにその小枝から先の管の部分は,単に肺胞まで空気を出入りさせるための通り道に過ぎない。 呼吸のとき空気はこの通路を往復運動する。 息を吸った時に肺胞までたどり着かなかった空気はそのまま逆戻りで吐き出される。 この分の空気はガス交換されないまま吐き出さされるので,ガス交換という生理的な意味でいうと無駄になってしまう。 それでこの分のスペースは死んだ空間,死腔(dead space)と呼ばれる。 一方,肺胞までたどり着いた空気の分は肺胞換気量(alveolar ventilation)と呼ばれる。 一回換気量は肺胞換気量と死腔を合わせた量になる。

教科書の記述に従うと,一回換気量が 450 ミリリットルで,死腔のボリュームは全部あわせると 150 ミリリットルあるというので,ガス交換に働いている肺胞換気量は一回換気量の 3 分の 2 で, 3 分の 1 の空気はただ出入りしているだけだということになる。 一回換気量が 150 ミリリットルしかなかったら,呼吸回数を3倍にすれば一分あたりの換気量は普通と同じ量にはなるけれど,実際はガス交換はまったく起こらないので,全然呼吸していないのと変わらない。

肺胞換気(浅速呼吸
気道の大きさによる解剖学的死腔は人それぞれでの身体でだいたい決まっている。 さらに,タバコのタールなどで機能しない肺胞ができると,それも死腔になる。 血管の問題で血流がない肺胞も結構あるそうでそれも死腔になる。 解剖学的死腔に,こういう機能的死腔も加えて死腔全体を生理学的死腔(physiological dead space)と呼ぶそうだ。 機能的死腔がゼロだと,解剖学的死腔と生理学的死腔は同じになるけれど,大抵のヒトは機能的死腔がゼロということはない。 特に断らずに「死腔」というときは生理学的死腔を意味している。 死腔の量が増えるとその分,肺胞換気量は削られる。 一回換気量が死腔と同じボリュームだと肺胞換気量はゼロなので,見かけ上呼吸運動はしていても実際は呼吸停止しているのと同じだ。 肺胞換気量が死腔と同じ程度,つまり一回換気量が死腔の2倍でも実際は強い呼吸困難を感じるという。

肺胞窒息肺胞換気A正常G230

●死腔は身体の中にあるとばかりは限らない

人口呼吸などで気管内に管を入れたり,気管切開とか手術では,空気が往ったり来たりするだけの部分は減るので,死腔は減る。 しかし,通常は死腔を減らすのは困難だ。 一方,死腔を増やすことは簡単で,適当なパイプをくわえて口で呼吸すると,パイプの分だけそのまま死腔は増加するので注意が必要だ。 パイプも含めた死腔が肺胞で換気される量を超えてしまえば,楽に呼吸をしているつもりでも肺の中にあった同じ空気が往ったり来たりしているだけだ。 新しい空気が肺胞に触れることはないから途端に苦しくなるだろう。 ガス交換が乏しくなると中枢は自動的に呼吸運動を激しくする仕組みはある。 しかし激しい呼吸運動をしながら,そのうち気を失ってしまう。 考えただけでも恐ろしい。 昔の小学生だったら水の中の遊びでやってしまいそうだけど,この頃の子どもはそんな失敗はしないだろうな。

●肺胞の空気は吐き出しても必ず残る

換気量とは直接の関係は少ないかもしれないけれど,肺胞のしくみで大事なことを付け加えると,普通の呼吸ではもちろん,最大限の息を吐き出してしまっても,肺胞の中には必ず空気が残っている。 肺胞は内面が水分で湿っているごく薄い壁でできた袋なので,全部の空気を吐き出してつぶれてしまうと,壁同士が張り付いてしまう。 一端張り付くと,これを陰圧で引き離して袋を広げることは大変な困難を伴うのだ。 だから極力,そのような事態に陥らないよう,肺胞には必ず空気を残して肺胞がつぶれないようにしている。 この空気の量を残気量(ざんきりょう,residual capacity)と言って,肺全体では 1 リットル以上にはなるそうだ。
※ 今回のアニメの表現は kikkenlab のオリジナルではなくて,元ネタはいろんな教科書に載っているものだ。 その大元のオリジナルは Julius H. Comroe, Jr. (1911-1984) によるもののようだ。

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[050] 細胞呼吸 cellular respiration

○参考文献

臓単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (内臓編))
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20170211,rev.20170502, rev.20180321,rev.20180729.

◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)

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コメント

    (ceokikkenより) [2018/06/06][4:57 PM]

    久しぶりにコメントをいただきました。東京コンクリートジャングルさん,有難うございます。授業に使っていただけるのは嬉しい限りです。どうぞ使ってください。平成30年6月6日

    (東京コンクリートジャングルより) [2018/06/06][4:51 PM]

    死腔の説明わかりやすくて良いです、ぜひ授業で画像を使用させていただこうと思います

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