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[014] 眼の遠近調節 accommodation of the eye (GB#116G03)

[014] 眼の遠近調節 accommodation of the eye (GB#116G03)

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accommodation of the eye
●近いものを見るとき毛様体筋は縮んで水晶体は緩む

近いものを見るとき,遠いものをみるとき,眼の中の水晶体(すいしょうたい,crystalline lens)がピントを調節していることは中学生でも習う。 遠近調節(accommodation)という反応だ。 

要点は,近くを見るときには水晶体のまわりの毛様体筋(ciliary muscle)が収縮する。 そうすると水晶体が厚くなって光の焦点が網膜(もうまく,retina)に結ぶようになるというものだ1)これはHolmherz (1855)の説による説明で,広く信じられているけれど,なんと,実はまだ”実証”はされていないらしい。。 

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●毛様体が収縮するとどこが縮む?

近くをみるとき,レンズが厚くなると焦点距離が短くなる。 理屈は簡単だ。 
だけど,大抵その横に付けられている説明図を見て,どうやってレンズが厚くなるのかすんなり納得できた人がどれだけいるのかな。 例えばこんな図がある。⇒ 【図】(近くのものを見るときの図では水晶体が厚くなっているのはいい。 だけど,その横から引っ張っているはずの筋(?)は縮んでなくて,伸びて巨大化している?)

これは極端な例だけど,その他でみられる図だって大抵は筋が伸びている(ように見える)か,苦し紛れに?水晶体だけがなぜか膨らんでいる絵になっていたりする。 どの絵を見てもどうもこの辺の処理がひどく曖昧で理解しづらい2)どうしてこのようなことになっているのだろう。 説明図を描いた人もほんとはよく理解できていないのではないかとつい疑ってしまう。 もちろん描かせた人,説明の執筆者は専門家だからわかっているはずだけど,それをきちんと伝えていない感じだ。

●水晶体はトランポリンのように周りから引っ張られている

おさらいをすると,水晶体は弾力性のあるゼラチンの塊みたいなもので,周囲を毛様体小体(チン小帯,Zonule of Zinn)という線維が引っ張っていて,その外側をぐるりと一周する毛様体(毛様体筋を含む構造的なまとまり)が引っ張っている。 

まず基本として,水晶体は常に周りから引っ張られている状態にある。 それで基本的な形として水晶体は少し扁平につぶれた形になっているのだ。 

紐(ひも)で引っ張られている姿は,ちょうど子供用のトランポリンのような格好だ。 

ただし毛様体はトランポリンでいうとまわりのフレームの位置になるけど,あんなに固いものではないし,実は毛様体自身が毛様体小体を引っ張っている訳でもない
3)でも実際,大抵の説明図は毛様体が水晶体を引っ張っているように描いてあるので混乱する。

では毛様体小体を引っ張る力はどこからでているのだろうか。 毛様体筋だろうか? それだとおかしいだろう。 

毛様体筋はたしかに毛様体のなかにある筋だけど,毛様体筋は収縮すると水晶体は厚くなるという説明のはずだ。 

●レンズを引っ張る力の元は液体の力

毛様体筋ではなくて,別に毛様体自体を外側に引っ張っている力がある。 毛様体は眼球の強膜に強く結合しているのだ。 眼球の中は常に一定の水が注入されていて,ほんのわずかだけど定常的に外側に膨らむ圧力,眼内圧(intraocular pressure)がかかってあの丸い形を保っている。 

毛様体を引っ張っているのはこの眼内圧にほかならない。 巾着袋に風船を入れていっぱいに膨らませてみよう。 水風船だともっとそれらしい。 巾着袋は丸く膨れて,巾着の口が広がるだろう。 あれだ。

●近くを見るとき毛様体のリングは小さくなる

毛様体筋というのは毛様体の中を水晶体を取り巻く平滑筋で,リング状に走る輪状線維(Muller筋)と,それと直交して放射状に走る筋,放射状線維と経線状線維(Brucke筋)の二重構造らしいけど,とりあえず輪状線維のことを考えよう。 これが縮むとどうなるか。 

水晶体を取り巻く輪っかが小さくなる。 それで水晶体を外側に引っ張っている力が弱まって,水晶体は自身の弾力性の力で膨らむことになるのだ。

accommodation of the eye
それではこの時,放射状に走る筋はどうしているのか。 近くを見るとき毛様体が伸びるようなモデルだと,この伸びているのが放射状の線維だと考えればよいのかもしれないけれど,放射状の筋も輪状線維と同じく平滑筋で,副交感神経のアセチルコリンで収縮するはずだ4)同じアセチルコリンで反応する平滑筋が,片方が収縮して,直交するもう片方が弛緩するなど複雑なことをやっているとは思えない。 もしそうなら教科書にも書いてあるはずだ。瞳孔(どうこう,pupil)では,瞳孔括約筋(どうこうかつやくきん,sphincter pupillae muscles)と瞳孔散大筋(どうこうさんだいきん,dilator pupillae muscles)は直交する。 これらの平滑筋は別々の神経で制御されていることが大抵の教科書には書いてある。 毛様体については副交感神経で収縮することしか書いてはいないので,要するに,輪状線維も放射状の線維も同時に収縮すると考えてよいだろう。 そうするとどうなるか。 

毛様体筋はまわりの強膜を引き付けながら輪っかを小さくしていくことになる。 
風船を入れて膨らんだ巾着袋の口を締めるようなものだ。
accommodation of the eye

●近くを見るとき眼内圧は上がるのか

このしくみから推測できるのは,近くを見るとき眼球がほんのわずか小さくなるだろう,あるいは眼球の中身(硝子体,しょうしたい,vitreous humor)の容積はわずかに小さくなろうとするだろうということだ。 一方で、コロイド状の硝子体は袋に入っていて眼房水とは混ざらないし,毛様体小体のわきから漏れ出ることもない。 すると眼内圧はわずかながらも上昇するのではないかと想像される。 

実際はどうなのか。 専門家は当然わかっているのだろうけれど,ネットで見ても情報はない。 少なくとも自分が検索した範囲ではどこも見当たらない。 
(← 下にも書いているけれど,最近見つけた資料では,意外なことに実際は近見のときには眼圧が低下する傾向のようだ。下記の論文参照。)

ただ,近視の人は眼圧が高めだということだ。 ただしこれは毛様体筋の運動とは直接の関係はないだろう。 毛様体筋がずっと緊張状態だからといって眼圧がずっと上がりっぱなしというのはちょっとお門違いだ。 その状態で眼圧は正常範囲に調整されるだろうから。 逆に眼圧が高めだと水晶体を引っ張る力が大きくなるから,水晶体は薄くなって近視よりも遠視を心配しないといけないかもしれない。 だけど,そういう記述もない。 

ただ,昔から,もともと眼圧が高い人は近見は避けるように言われているはずで,そこには今回説明したような事情が背景にあると思えばうなづける。

近いところを見続けると眼が疲れるし,反対に遠くを見ると楽になるというのもこれが関係していると思うのだけど,どうだろうか。(これも最近の論文からすると疑問だ。)

補足

※アニメーションでは毛様体筋収縮で毛様体扁平部(もうようたいへんぺいぶ,pars plana ciliaris)や鋸状縁(きょじょうえん,ora serrata)の部分が浮き上がるように強調して描いているけれど,実際は違う。 

ただ,縦走筋は虹彩の付け根(虹彩起始部)の方に毛様体扁平部を引き上げるような位置関係にあるので,収縮すると輪状筋で絞った分を毛様体全体をせり上げるような動きになるのかもしれない。 

眼球そのものはなるべく変形しないような仕組みにはなっているのだろう。 それでも鋸状縁を引き上げて眼球内面を絞り上げるような動きにはなるのではないだろうか。

※正確には「眼圧」は眼球の外から測ったもので,眼内圧とは違うものだけど,だいたい連動するし,値もだいたい同じレベルのようだ。 眼圧の正常値は,10 – 21 mmHgとされる。

※毛様体筋が収縮すると,眼球はほんのわずかに縮みはするけれど,すぐそばにある眼房水を排出する穴(シュレム管)が開いて,眼圧が低下するということ。

 ↑ 記事を折りたたむ

○参考にしたサイト

※実際,毛様体筋のところで引っかかって困っている人は実在する。

  ⇒ 毛様体が収縮すると水晶体は厚くなる???【リンク切れ】
  ⇒ 毛様体が弛緩するとチン小帯が緊張するのはなぜ?
(混乱した議論が見られます。)

・理科の先生がブタの目玉でチン帯を観察している 【グロテスクな写真が出てくるので趣味でない人は避けたほうがよいかも】

・眼の遠近調節だけにこれほどの時間と労力をかけるとは。 この熱意には脱帽します。⇒ 平成16年度岩手県教育研究会発表資料(高等学校生物Ⅰ)(岩手県総合教育センター)※これにもちょっとグロテスクな写真が掲載されていますのでご注意ください。上のブログと同じ著者かな?

 ・楽しいマンガでも紹介されています。⇒ Lesson4-01(p8)遠近調節は「遠」が基本(萌えろ!高校生物I・II)

・専門家(眼科医)による大変詳しい説明がされています。⇒ あたらしい調節の概念(Dynamic biomechanical model)なかしま眼科 (2015-06-25追加)

 ・近見のときに眼圧は低下するという論文 ⇒ Intraocular Pressure Changes during Accommodation in Progressing Myopes, Stable Myopes and Emmetropes.Yan Liu, et al., PLoS One.(2015) ただし測定は近見・遠見で眼球を安定化したうえで空気式眼圧計で測定している。

・「最近」ではないですが,遠近調節研究についての混沌さがわかるエッセイ ⇒ 調節と老視:最近の研究動向(1995)

○関連する記事

[020] 対光反射 pupillary light reflex
[044] 伸張反射 stretch reflex
[033] 平滑筋の収縮 smooth muscle contraction
[031] 興奮伝導 conduction of excitation

○参考文献

ガイトン生理学 原著第13版
ギャノング生理学 原書25版 (LangeTextbookシリーズ)
現代の眼科学 改訂第13版
カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社

rev.20150625, rev.20170211, rev.20170503,rev.20180327, rev.20181225, rev.20181228, rev.20191924, rev.20191023, rev.20191024.

◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)

脚注   [ + ]

1. これはHolmherz (1855)の説による説明で,広く信じられているけれど,なんと,実はまだ”実証”はされていないらしい。
2. どうしてこのようなことになっているのだろう。 説明図を描いた人もほんとはよく理解できていないのではないかとつい疑ってしまう。 もちろん描かせた人,説明の執筆者は専門家だからわかっているはずだけど,それをきちんと伝えていない感じだ。
3. でも実際,大抵の説明図は毛様体が水晶体を引っ張っているように描いてあるので混乱する。
4. 同じアセチルコリンで反応する平滑筋が,片方が収縮して,直交するもう片方が弛緩するなど複雑なことをやっているとは思えない。 もしそうなら教科書にも書いてあるはずだ。瞳孔(どうこう,pupil)では,瞳孔括約筋(どうこうかつやくきん,sphincter pupillae muscles)と瞳孔散大筋(どうこうさんだいきん,dilator pupillae muscles)は直交する。 これらの平滑筋は別々の神経で制御されていることが大抵の教科書には書いてある。

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コメント

    (ceoKIKKENより) [2012/11/18][8:27 AM]

    > とてもわかりやすい図ですね!!
    > これならイメージがつきやすいです!
    そう感じていただければありがたいです。
    毛様体筋が水晶体を引っ張っているという印象を与えてしまっているのが、なかなか理解しづらくしている原因だろうと思われます。 毛様体筋が、その機能の中心となるのが輪状筋であることが、なぜかあいまいにされていますね。 瞳孔括約筋と同じように、括約筋だと言ってしまえば話は簡単だろうと思うのですが、解剖学的に括約筋とは言えない何か事情があるのでしょうかね?

    (TAKAより) [2012/11/17][4:09 PM]

    とてもわかりやすい図ですね!!
    これならイメージがつきやすいです!

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