[012] 分節運動 intestinal segmentation (GB#105B02) | 基礎医学教育研究会(KIKKEN)Lab
●消化吸収の必殺技
消化管の運動(gastrointestinal motility)でよく知られているのは蠕動(peristalsis)で,俗に「蠕動運動を促進する」とはおいしくて消化が良い食べ物に与えられた賛辞だ。 しかし蠕動運動は食べ物の塊を先に送ることが主な役割で,先送りしているばかりでは消化はできない。 そんなにスピードアップしても未消化のまま一気に直腸まで行ってしまったら大変だ。
—
●にぎってにぎって混ぜ合わせる
消化吸収活動で威力を発揮するのは分節(segmentation)と呼ばれる運動だ。 蠕動は収縮している部分が連続的に一定方向,口から肛門に向かって,流れるように移動するのに対して,分節運動は一定の範囲の部分で,収縮している部位と弛緩している部位が交互に入れ替わる。
やわらかいビニールチューブの中にいろいろな食材を入れて全体を均一に混ぜてしまおうとすれば,あっちをつぶしてこっちをつぶしてとかするだろう。 あれと同じように腸がわざと間隔をあけて収縮して,食べた中身を消化液と混ぜてぐちゃぐちゃにしながら消化と吸収を行うのだ。 分節運動は食道や胃では起こらず,使えるのは小腸や大腸だけだ。
●腸は自分で運動を選ぶ
蠕動と分節は使う筋肉は同じでも,使い方はまるっきり違う。 消化管の筋肉は平滑筋でこの運動をコントロールしているのは消化管の中に埋まっている神経ネットワークだ。 アウエルバッハ神経叢(Auerbach’s plexus)やマイスネル神経叢(Meissner’s plexus)というものがある。 結局,蠕動と分節ではこの神経ネットワークの働き方が替わるのだ。 蠕動では決まった方向に神経の興奮と抑制が流れていくのに対し,分節では同じところで興奮と抑制が交互に入れ替わる。 横方向で見ると興奮と抑制が行ったり来たりということになるから,局所でみると蠕動のときとは逆方向に信号が走ることにもなる。 この切り替えはどうやっているのだろうか。
詳しいことはまだわからないけれど,腸は,とくに小腸の神経ネットワークは内容物の消化状態に応じて運動を選んでいるようだ。 もうここまで来ると延髄や脊髄からの自律神経を介してのリモートコントロールは効きにくいのだ。 現場の状況に応じて自分で判断するのが一番だ。 だから小腸は小さな脳,第二の脳とも呼ばれる。 大腸にくると今度は逆に本来の脳みその影響を受けやすくなってくる。 緊張して急に便意を催すのはそのせいだ。 消化と吸収の中心部分が本来の脳みそからある程度切り離されたかたちになっているのは,そういった精神活動に邪魔されずに安定して活動するための仕組みなのかもしれない。
○関連する記事
◆[008] 弁の働き valve in the thin‐walled vessel
◆[033] 平滑筋の収縮 smooth muscle contraction
◆[022] 胃と十二指腸 the stomach and the duodenum
◆[017] 糖質の吸収 absorption of carbohydratel
○参考文献
・臓単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (内臓編))
・カラー図解 人体の正常構造と機能 全10巻縮刷版,坂井 建雄,日本医事新報社
・人体機能生理学,杉 晴夫,南江堂
・トートラ人体解剖生理学 原書8版,丸善
・イラスト解剖学,松村 讓兒,中外医学社
・柔道整復学校協会編「生理学」,南江堂
・東洋療法学校協会編「生理学」,医歯薬出版株式会社
rev.20170211,rev.20170502. rev.20170701.
◆基礎医学教育研究会(KIKKEN)